「はぁ…酷い目にあった…」
 よろよろと隊首室へと戻ってきた春水は笠を外し、うなじをさする。
「お疲れ様でした」
「七緒ちゃん!!」
 自室で待っていてくれた七緒を見つけ春水の瞳が輝く。
「お帰り!!ボクの七緒ちゃん!!」
「誰がボクのですか」
 抱きつこうとして、ぴしゃりと扇子で手を叩かれる。
「ひどいよ、七緒ちゃん。今日一日ボクすっごく頑張ったのに」
 唇を尖らせ文句を言う。
「あら、普段からなさっていればこんな事ありませんでしたのに」
 冷やかに返されるが、そこはさりげなく聞かなかった事にした。

「…それで、新しい女性隊員はいかがでしたか?」
「七緒ちゃんが一番です!!」
 どうやら春水の願い事が気に入らなかったのも、一つの要因だったらしい。仕事が終わっていなければ、戻ってこないという台詞に本気を感じ取り、春水は頑張ったのだ。
 乱菊が副隊長で楽しいには違いないが、春水も乱菊も抑止力がなくなれば恐らく仕事を全くしなくなってしまい、かなり無秩序になると思われる。自分でも容易に想像が付くだけに、乱菊はあくまでも友人の位置のままでいて欲しいと願っているし、自分の副隊長は七緒でなくてはいけないと思う。

「七緒ちゃん、ね、ご機嫌直して?八番隊へ戻って来るよね?ボクと一緒にいてくれるよね?」
 春水は七緒を手放すまいと必死だ。何せ自分と七緒の繋がりは、隊長と副隊長だからこそと思える時があるからだ。
 特に今日のように『ボクの七緒ちゃん』と求めても、冷たくあしらわれてしまっては。

「…全くもう…。誰があなたのような人についていけると?私以外おりませんでしょう?」
「七緒ちゃん!」
 大きな溜息と苦笑いとともに、さらりと七緒は重要な言葉を口にした。
「自分勝手に好き勝手して。どうせ私など何とも思っていらっしゃらないくせに」
「そんなことないよ!七緒ちゃんはとってもとっても大事だよ」
 大事にし過ぎて戦いに参加させないくらいに。
 彼女の手が、彼女の刃が血に染まる様子など見たくない、と言わんばかりに大切にしている。
「たまには私が好き勝手しても良いでしょう?」
 七緒の拗ねたような甘い呟きに春水は笑みを浮かべ、優しく抱きよせ、うなじを撫で、堅苦しくまとめている髪留めを外しながら、唇を首筋へと這わせる。
「…それで、日番谷君はどうだったの?」
「さすがは天才児。力だけでなく勤勉でいらっしゃいました。乱菊さんも、少しは仕事を真面目にすれば早く終わるのに」
「いやあ…七緒ちゃんだったからってのもあると思うよ?」
 七緒の表情からするとかなり早い段階で仕事が片付いたようだ。うっとりと羨むような言葉には、春水は師走の忙しい中、ちょっぴり勤勉になって七緒に褒められたいと考えてしまうくらいだ。

 七緒が抵抗なく押し倒される様子に、重國への願い事は大成功だったようだ。満足感に浸っている。
「七緒ちゃん」
 これでは駄目だと春水は張り切った。自分の方へと意識を向けさせなくてはと焦るほどに。
「ボクを見て」
 唇を啄み甘く囁く。
「ふふ…」
 七緒にはそんな焦る春水の気持ちが解っているようで、あやすように笑う。
 これは逆に春水の気持ちを煽ることになった。
「余裕だねぇ?七緒ちゃん?」
「ん。今日は気分が良いんです」
 春水の手が七緒の死覇装を手早く脱がせて行く。
「そう、今日は寝かさないからね」
「良いですよ」
 春水が宣言すれば余裕ある七緒は鷹揚に頷く。
 現世ではクリスマスの夜は恋人同士の夜なのだから。



 そして、乱菊は…。
「えー!何これ!宝くじじゃないの!」
「運が良ければ、当たりますよ」
 重國や長次郎に激しく抗議ができず、乱菊は不満げに文句を言うのみだ。
 ただ働きをしたような気分になり、この恨みは冬獅郎へぶつけるべきか、七緒へぶつけるべきかと思案したが……。


 後日、乱菊はあっさりと機嫌を直した。
 かなりの高額が当たっていたのだ。
「うふふ、ラッキー!」


 一番得をしたのは誰だったのか。



 皆の笑顔が、誰もが自分が一番だったと物語っていたのでした。


おしまい

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