「よろしい、叶えよう」
 重國が重々しく呟いた。
「は?」
 長次郎は突然の呟きに顔を上げ重國を見上げた。

 長次郎の驚きを余所に、重國はさらさらと筆を紙へと走らせる。
「八番隊副隊長伊勢七緒を十番隊へ、十番隊副隊長松本乱菊を八番隊への移動を命ずる」
「ははっ」
 長次郎は紙を受け取ったものの、およそ一名が猛烈に反発するであろうことを考えた。

「二十五日一日限りじゃ」
「ははっ」
 それならば大丈夫だろうと胸を撫で下ろしつつも、この辞令をどのように渡すべきか思案した。これをそのまま渡しては意味がないと考えたのである。
 日頃七緒の愚痴を耳にすることがあるので、このまま渡しては八番隊が恐ろしいことになるに相違ない。
 だが、そんな長次郎の心配をも、重國はしっかりと考えていた。



 緊急招集と言う形で、八番隊の隊長と副隊長、十番隊の隊長と副隊長が揃って重國の元へと呼び出された。

「日頃の働きに感謝する」
「それは良いけど…何なのさ山じい」
 こんな気易い口調で語りかけられるのは春水だけだ。
「うむ。そこでじゃ、八番隊副隊長伊勢七緒」
「はい」
「十番隊副隊長松本乱菊」
「はいっ」
「二十五日のみ、それぞれ移動することを任ずる」
「それは…」
 七緒が一瞬判断がつかず問いかけると、長次郎が丁寧な説明を始めた。
「十二月二十五日一日限り、伊勢副隊長は十番隊へ、松本副隊長は八番隊へ移動になります」
「うむ」
「何故、二十五日限定なのでしょうか」
「くりすますぷれぜんとじゃ」
「あっ」
 七緒は思い当たったらしく声を上げた。
「え?あれ、よろしいのでしょうか…」
「うむ」
「ありがとうございます!!」
 七緒は純粋に喜びに顔を明るくさせた。

「山じい!!なんでさ!何で七緒ちゃんの願いだけかなえて、それがよりによって移動なのさ!ボク大反対!!」
 ようやく状況が把握できたのか、春水が猛烈に抗議をはじめた。あまりの出来事に思考が停止していたらしい。
「春水の願いもかなえたぞ」
「はあ?」
「新しい女子隊員が欲しいと書いてあったじゃろう?」
「うう!」
 重國の一言に春水が珍しく言葉に詰まった。
「じゃあ、あたしの願いごとは〜?」
「ほれ」
 重國が何かを懐から取り出した。
「え?何ですそれ」
「こづかいじゃ」
「きゃー!!ありがとうございます!」
 受け取ろうと手を差し伸べ駆け寄ろうとする。
「ただし」
「はい?」
「八番隊での職務を全うせねば、これはなしじゃ」
 封筒を見せつけながらきっぱりと言う。
「えー!」
「えー、じゃねえだろ。当たり前のことだ」
 抗議する乱菊に冬獅郎が苦々しく呟く。
「…日番谷隊長は何を願い事を?」
「参加してねぇよ」
「あら」
 くだらないことだと一蹴した様子だ。
 七緒もくだらないと思いつつ、女性死神協会副会長や八番隊副隊長を務められるくらいノリはよいのだ。



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あきゅろす。
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