「きゃっ」
 突風に七緒は思わず声を上げて本を片手で持ち、髪を押さえた。
「すごい風だねぇ」
「はい、本当に」
 春水は素早く立ち位置を変え風上に回る。
 七緒の周辺だけ風が来ない。
「帰ろうか」
「…はい」
 昔とは違い今は七緒も副隊長。これしきの風でよろめくことはない。
 それでも春水は七緒を風から庇うように風上に自然に立っている。
 笠も、羽織っただけの着物も揺らがない。
 何時まで経っても敵わない。
 七緒は微かに苦笑いを浮かべ小さく息を吐きだした。
「…七緒ちゃんはそのままでいいんだよ」
 春水は七緒を護りたいと思っている。副隊長だからと気を張る彼女を。自分の我儘で側に置き続けている彼女を。
「…いいえ、何時まで経っても子供扱いでは困ります」
「…子供扱いはしてないんだけれど」
 男として女を護りたい。
 この点だけはどうも意思がすれ違ってしまうようだ。
「参ったねえ…どうも…」
 小さく呟きながらも春水は七緒を風から庇うように歩く。
「それより、いい機会です。さっさと隊舎に戻って書類を片付けましょう」
「ああ…ボクちょっと頭痛が…」
「頭痛ですか、四番隊によって薬をいただいて参りましょう」
「あ、いや、それほどでも…ちょっと横になれば治るよ…きっと…」
「いえいえ、頭痛は侮るわけには参りません、さあ卯ノ花隊長に診ていただきましょう」
 慌てる春水に七緒は満面の笑みを浮かべるが、当然のことながら目は笑っていない。
「あ、ああ、治ったかな?隊舎へ早く戻ろうか、体が冷えてきっと頭が痛むんだ」
「まあ、そうですね」
 こめかみを摩りながら、吹きつける風の冷たさに春水の言葉も一理あると頷き、隊舎へ向かう。

 春水から護られる心地よさに浸りながらも、逃がすまいと油断なく目を光らせながら。


「七緒ちゃん、怖いよ。逃げないからそんなに睨まないでよ」
「いいえ、せっかくの機会ですから逃すわけには参りません」
「やれやれ…参ったねぇ…どうも」
 今日は七緒に勝ちを譲ろう。
 せっかくの機会なのだから。




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あきゅろす。
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