「わ、わわわ…」
 大きな本を両腕の中に抱え七緒はよろめいた。
「うわわ…、わわ…」
 驚きの声が止まらない。
「わ、わああ!!」
 とうとう叫び声をあげてしまった。

「おっと、大丈夫かい?七緒ちゃん」
「わ!京楽隊長!も、申し訳ありませんっ!」
 支えてくれた春水の手から逃れようと七緒は謝罪したが、春水の手はしっかりと七緒を抱き離そうとしない。
「あ、あの、京楽隊長…」
「無理しなさんな。こんな風の強い時に」
 穏やかな微笑み、力強い腕。春水は強い風にびくともしないでいる。
「も、申し訳ありません…」
 頬をほんのりと染めて眉をひそめ謝罪を繰り返す七緒の様子に、春水は苦笑いを浮かべ眉間を軽く突いた。
「ほら、そんなに謝らないの。七緒ちゃんが悪いことをしたわけじゃないんだからね?」
「し、しかし…」
 これしきの風の強さでよろめくとは修行不足ではないかと考えてしまうのだ。
「フフ、こんな大きな本を抱えて何言ってんの。もう少し大人を頼りなさい」
「……しかし…」
 頼るにしても隊長という偉い人を頼るのはおかしなことではないだろうかと、七緒は考えてしまう。
「ボクは八番隊で一番偉いの、一番長くいるの。七緒ちゃんは八番隊で一番若いの。君が何もかもできたら、すっごくおかしくないかい?」
「あっ」
 春水は自分と七緒を指さして諭すとようやく七緒は理解できたようだ。
「そ、それは確かに…」
 はじめから完璧にできていればそれこそ上位席官になっているだろう。実際に子供のような姿の副隊長が十二番隊に在席しているのだ。
「それに、七緒ちゃんも頑張って踏ん張ってたよね。鬼道は上手だけれど歩法はちょっと苦手かな?」
「は、はい…」
 春水の指摘に七緒は驚きながらも素直に頷いた。隊長の目を誤魔化すことなど不可能なのだ。
「それに、七緒ちゃんはとっても軽いし、本はすっごく重いし。よろめいちゃうのは仕方がないよ。ボクは大人で大きいからね。これくらいの風はへっちゃらだ」
 七緒を片腕で軽々と抱きあげて、歩き出した。

「え、た、隊長っ、あのっ」
 あまりに甘やかされた行為に七緒はうろたえてしまう。
「可愛いねぇ、真っ赤になっちゃって」
 道行く人は春水の行為に不思議とは感じないらしい。寧ろ、七緒を案じる言葉を掛けるほどだ。


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