「……七緒ちゃん?」
「はい」
「…私服は?」
 畏まった表情で七緒は佇んでいる。
 メイド服で。
 春水は悲しそうな表情で見下ろしている。

「……私、春水様の婚約者として相応しい服を持っておりませんので」
 眼鏡を持ち上げ、春水を見上げる。
「…そうきたか…しょうがないねぇ…」
 春水は苦笑いを浮かべて七緒を室内へと招き、七緒は早速春水の着替えた服を手に片付ける。

「…七緒ちゃんここ、おいで」
 ソファに座り手招きし、膝の上へと座らせる。

「…そんな格好じゃ、手が出せないよ…どうも…」
 春水が切なそうにぼやくと七緒は背筋を伸ばし、春水を見下ろした。
「それは良いことを聞きました。私、結婚式を挙げるまでは、メイド服かスーツのみとさせていただきます」
「んなっ!何だってっ!?やっと七緒ちゃんを抱けると思ったのにっ」
 驚き顔を上げた春水を、七緒は冷ややかに見下ろす。
「私、婚前交渉は好みません。春水様の正式な妻となるまでは、致しませんから」
「そ、そんなぁ…」
 嘆きがっくりと肩を落とす春水に、七緒は小さく咳ばらいをする。

「コホン…初夜に…私の処女を春水様に捧げるのは…おかしな夢でしょうか」
 真っ赤になり視線を反らしながらも濁す事ない内容に、春水の瞳が煌めく。

「とんでもないっ!ありがたくいただきますっ」
「では、我慢下さいましね」
「我慢するっ!そして、一日でも早く式を挙げよう!!」

 


 それから、一月後…。

 驚異的なスピードで当面の仕事を全て片付け、立派な結婚式まで挙げ、二週間に渡る新婚旅行へと旅立った二人がいたのでした。


おしまい


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あきゅろす。
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