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「…い、いや…春水様…」
小さく震えているものの、抵抗するそぶりは見せない。幼い頃から、春水は七緒にとって一番、唯一安全な人だったから。
七緒の怯えた表情に春水は溜息を吐き出し、手を腰へと戻した。
七緒の肩へ額を押し付け目蓋を閉じる。大切に、蝶よ花よと可愛がってきた七緒を脅してどうするのだと、自問自答する。
「……」
自分に甘えるようにしている春水を見下ろし、七緒は困惑していた。
本当に自分はこの人と結婚してよいのかと、思うのだ。幼い少女に嫉妬し酷い事を言い捨てて通り過ぎた女達の言葉など、今はどうとも思わないが、祖父の立場は別だ。
「……解ったよ。七緒ちゃん。最初に伊勢じいと親父殿に許可を貰おうか。それなら大丈夫だよね?」
「…はい…それなら…」
当主と祖父が許可したらなば、七緒は確かに納得ができるかも知れないと、こくりと頷いた。
逆を言えばあの二人が許可をしなければ、春水は諦めるだろうと。
七緒の思惑は外れた。
「やっと気付いてくれたか。このままでは、命じなくてはと思っていたぞ」
「春水坊ちゃま…孫をよろしくお願い致します」
笑みを浮かべてあっさりと二人は認めてしまった。
それどころか、そのつもりだったようだ。
「…春水は七緒以外の女の扱いが酷いからな。光源氏計画でもたてているのかと思っていた程でな。伊勢と相談して、結婚させようと考えていたんだ」
「…旦那様…」
「伊勢も最初は渋っていたが、七緒がこの家から出て、何処の馬の骨とも知れぬ輩に嫁にやれるかと確認したら、春水が遥かにましだと気付いてな」
当主の言い様に、七緒はあんぐりと口を開け見つめるばかりだ。
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