昔から京楽家に仕えてきた一族もいて、それが伊勢家だった。
 爵位を与えられた時、伊勢家は執事として仕えており、現在も執事の役割を果たしているのだが、その執事の孫娘が七緒なのである。
 両親も京楽家に仕えていたのだが七緒が幼い頃、事故で亡くなり、祖父と京楽家に育てられたようなものだった。

 幼い頃は、春水のメイドとして側にいた。
 適齢期のメイドでは春水が手を付けてしまうからだ。いくらなんでも子供には手を出さないだろうと、苦肉の策だ。
 何せ男では春水の口車に乗せられ、年配の者では逃げ出す春水を追い掛けられなかったのだから。

 そして、会社の役員に据えるに辺り、当主は七緒に秘書として教育を受けさせて春水につけたのだ。


 子供の七緒の前で女といちゃつくような事はしなかったが、女を連れて帰った事はある。恐らく自分が少し離れた時に、女が厭味を言ったのだろう。
 既にその時の女達と縁は切れているが、怒りが込み上げてくる。

 何故なら春水は七緒を可愛がっていたからだ。
 七緒は自分の立場を弁える賢い子供だった。賢いが為に真面目だった。そんな子供を邪険にする程春水は悪ぶれてはいない。


「七緒ちゃんっ!」
「五分の遅刻です」
 七緒が眼鏡を持ち上げ冷ややかな視線を向ける。
「…乱菊ちゃんに聞いた。君を置物だと言ったのは誰だ」
「さあ?」
 鼻息荒く尋ねる春水に七緒は首を傾げた。
「専務のお相手が多過ぎて、どなただったかなど覚えておりません」
「嘘だっ。七緒ちゃんは記憶力がいいじゃないか」
「今更その方の事を持ち出した所で、無意味ではありませんか?」
 七緒の言う事は正論だが、春水は聞かねば気が済まない。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!