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 文句を言いながら一向に起き上がろうとしない七緒を、訝しげに見下ろす。
「…本当に起き上がれない?」
「…腰から下に感覚がないんです…厠にも行きたいのに…」
 頬を染めて春水を睨み上げてくる。
「…ご免よ…」
 眉間に皺を寄せ眉尻を下げ謝罪する春水の口元は、奇妙に歪んでいる。
「心にもないようですね」
「申し訳ないとは思ってるよ…けど…」
「早く連れて行こうとは思わないんですか?」
「あ…はいはい…」
 七緒の抗議に春水は慌てて起き上がり、抱き上げると厠と洗面所へと連れて行った。


 七緒を布団へ戻すと、春水は昼食の手配をした。
 暫くすると昼食が運ばれて来て、春水は室内に人を上げる事なく追い払う。
 自ら膳を持って来ると、座椅子を持って来て、七緒を抱き起こした。
「後でマッサージしてあげるね」
「お風呂入りたい…」
「うんお風呂だね」 
 浴衣を素肌に着ただけで、けだるげに体を座椅子に預けている姿を見るだけで、春水には堪らなく幸せな気分になる。
 無防備に自分の部屋にいる七緒。まさしく”ボクの七緒ちゃん”なのだから。


 元々、貴族の次男坊で遊び人だったのだが、小さな七緒と出会った夜から、一変した。
 彼女の笑顔を見たい一心で世話を焼き始めたら、思いの外楽しかったのだ。
 そして七緒は幼くとも賢い為、大人の女に見られるずる賢さはなく、気難しい一面はあるものの素直だった。
 更に素晴らしい事に、捻くれ腹に一物持っているような自分と共にいても、変わらない。反面教師になったのだろうか。

「はい、七緒ちゃんお箸」
 春水が揃えて渡すと、七緒が両手で受け取る。
「…いただきます」
 明らかにあまり食欲のない声だ。

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