◇BLEACH if…
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 美しく育ったものだと、こういった場面に遭遇すると、しみじみ感じる。
 花弁が舞い散る桜並木を、やちるが歩いているだけで、皆が振り返る。

 剣八はゆっくりと桜を眺めながら、やちるを眺めながら歩いていた。
「剣ちゃーん!こっちー!」
 やちるが長い髪を靡かせながら振り返り、剣八へ向って手を振る。ちょこちょこと走っては、振り返り剣八が追いつくのを待ち、追いついたと思ったら、またちょこちょこと走り出す。
「…変わってねぇか…」
 思わず、苦笑いを浮かべて呟く。
 先刻感じた感傷は、間違いだったかと思うほど、やちるの表情はくるくると変わる。
 だが、それは全て剣八の態度によるもので、やちるが敏感に感じ取って見せている物だとは、剣八もやちる自身も気が付いていない。

 
「あったあった!」
 辿り着いたそこには、他の桜と違う木が一本、威風堂々と立っていた。
「ほう…八重桜か」
 桜並木は薄い桜色のソメイヨシノ。その終着点の位置にある桜は濃い桜色の、八重に咲くサトザクラ。ソメイヨシノが咲き終わった頃に、咲き始める。花弁が幾重にも重なり、色と重量からどっしりと構えて見える。
「綺麗だよねー!」
「……ああ」
 サトザクラの濃い花弁の色と、やちるの桃色の髪の色がよく似ていて、溶け込んでいるようにみえる。桃色と、黒い死覇装と、満開のサトザクラ…。

「……」
 剣八は思わず、やちるを抱き寄せ、唇を重ねた。
「んん!?」
 今は桜が満開で、昼間で、つまり花見に人が沢山いる。また、ここのサトザクラは珍しい巨木であり有名だった。そんな事から、当然、最も盛りのサトザクラの前には、さらに沢山の花見の人がいるわけである。そんな中で、護廷十三隊最強と謳われる十一番隊隊長の更木剣八が、人前で、どうどうと口付けを交わす。
 人が見ていようがお構いなしに、貪るようにやちるの唇を求め続ける。
「…ん…んん…」
 勿論、やちるが剣八の口付けを拒む訳がない。剣八の首へ腕を回し、求められるままに、素直に応じる。
 サトザクラの幹にやちるを押し付けるようにし、幾度も角度を替えては、やちるの唇を求め続け、ようやく唇を離した時には、やちるは幹伝いに座り込んでしまった。

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