◇BLEACH if…
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 後少しで、日付が変ろうという時に、珍しく思い出した。

「しまった、今日はやちるの誕生日だったか…」
 がりがりと頭を掻き、首を捻る。
「それにしちゃ、大人しかったな…?」
 いつもならば、誕生日は騒ぎ立てプレゼントをねだるのに、今日は随分と大人しかった。勤務も何時も通りこなしていた。その為、今の今までコロッと忘れていたのだから。
 気付いてしまった以上、放ってはおけない。何も用意はしていないが、言葉を一つ掛けておくだけでも違うものだと、長年の付き合いでわかっている。
 剣八も決断すると早い。早速やちるの部屋へと向かう。

「おい、やちる」
 知らぬ仲でもなし。声を掛け返事が来る前に、襖を開ける。
「なーに?剣ちゃん」
 やちるは寝る準備をしていたのだろう、既に浴衣姿で布団の上に座っていた。
「あー…、すまん。忘れてた。お前の誕生日」
「でも、思い出してくれたんだ」
 やちるは静かに微笑み返した。
「ああ、その、なんだ。何か欲しいものはあるか?今日は無理だが、明日にでも…」
「…何でもいい?」
「ああ。忘れてた俺もわりぃからな」

 剣八の言葉に、やちるはにんまりと笑った。その笑みをみた瞬間、剣八が後悔したのは言うまでもない。

「おめぇ、わざと黙ってたな?」
「うふふー。だって、おねだりしたかったんだもん。もー、ドキドキしたんだよ?剣ちゃんに誕生日思い出してもらえなかったらどうしようって」
 枕を抱えて、悪戯ッ子の表情を見せる。
「……」
 やちるがここまで我慢していたことに、片眉を上げてうかがう。いつもなら、欲しいものは直ぐに行動し欲しがるやちるが、じっと黙って我慢していたのだ。
 よほどのおねだりなのだろう。
「…何が欲しいんだ?」
「…あのね、剣ちゃんが欲しいな」
「……は?」
 大きく溜息はつきつつ、答えを促した剣八だが、やちるの言葉に何を言われているか解らなかった。

「だから、剣ちゃんが欲しいんだってば」
「俺?」
「そう!」
 大きく真剣に頷くやちる。
「…どういう意味なんだ?欲しいったって、おまえいつも一緒にいるじゃねえか」
「違うの。そういうのじゃなくって、オトコとオンナっていう意味」
「………………」

 やちるの台詞に剣八は黙り込んだ。霊圧がじわじわと上がっていく。

「誰かに吹き込まれたとかじゃないんだよ。ずっとこの日でお願いしようって決めてたの」
 やちるが静かに、剣八を見る。
「あのね、剣ちゃん。あたしやっと16歳になったんだよ」

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