◇BLEACH if…

「何で俺がそんなことしなきゃいけねぇんだ!」
 剣八が不機嫌そうに唸る。それを取りなしているのは、一角と弓親と、何故か恋次である。
「そもそも、隊長が副隊長を怒らせたんでしょうに」
 一角は半ば諦めたような口調で呟くと、剣八が睨みつけた。
「でも、このまま帰って来なかったら…」
 恋次がおずおずと申し出た内容。それが今回の問題であり、恋次が剣八の説得に担ぎ出された理由でもある。

 内容までは解らないが、どうやら剣八がやちるを怒らせたらしい。
 そこまではいつものことだと皆誰も気にすることはないのだが。
 問題は、拗ねたやちるが女性死神協会の隠れ家である朽木邸に居座り続けているのだ。無論白哉は相手をするつもりなどないのだが、ルキアはそうはいかない。白哉に相手をするなと止められても、女性死神協会の会長であるやちるにそむくこともできず困り果てているのだ。

「更木隊長、お願いします」
 恋次が身を乗り出して説得を試みる。何せ剣八を連れていかなければ、朽木邸への出入り禁止を言い渡されかねないくらいに、白哉の機嫌は日増しに悪くなっていくのだ。そんな事をされてはルキアに会える場所が減ってしまう。
「何でてめーがぐちゃぐちゃと…」
「…草鹿副隊長が家出している場所は朽木邸なんスよ」
 ようやく話が一歩進んだと恋次は溜息交じりに告げた。
「…またあいつのところかよ」
 忌々しそうに舌打ちする。他の男の自宅と聞いてはいい気分になれるはずもない。まして白哉は未だ亡き妻に操を立てているかのように、独身を貫いているのだから。独身の男の元へ家出をしていると考えると、頭が混乱しそうになる。
 白哉が全くやちるを相手にしていないと解っていても、人懐っこいやちるの方が何かと白哉にちょっかいを掛けているのだから。

「どうしろって言うんだ」
 首を振り自分の手には負えない事態なのだと両手を挙げて悪態を吐く。

 これでまた一歩話が進むと、一角と弓親と恋次は素早く視線を交わし、膝を進めて剣八の説得に掛った。


「草鹿副隊長」
「なーに?ルッキー」
 やちるがルキアを見下ろし首を傾げる。
「あの、本日は草鹿副隊長のお誕生日ですよね」
「うん」
「それで、明後日はバレンタインです」
「うん。それで?」
「はい、それで、私と義兄と、恋次でプレゼントの相談をしまして」
 何時もならここで嬉しそうに食いついてくるところだが、やちるは首を傾げたまま笑みを口元に張りつけているだけだ。
「先程ようやく用意ができましたので、是非受け取っていただきたいのですが」
「…ん?今ここにないの?」
「はい。少し大きなものですので、ここにはないのです」
 真面目に真剣に大きな瞳を真っすぐに見つめてくる様子は何処か必死でもある。
「……十一番隊にならいかないから」
「大丈夫です。十一番隊ではございません。そもそも、私と義兄と恋次で用意するものですよ?十一番隊に用意はできません」
「んー…それも、そっかぁ」
 ようやく納得したように頷き、笑顔を見せた。
 少し寂しげではあるが、やっとやちるらしい笑顔が見れたとルキアは安堵の微笑を浮かべた。
「さあ、早速参りましょう。何せチョコレートですので溶けてしまいます」
「わー!何?チョコなの?ここ以外に用意って、たくさんあるのかな?」
「ええ、それはもう」
「うわあ、嬉しい!」
 甘いものが大好きなやちるは更に笑みが深くなった。しかも食べ放題な予感もする。朽木義兄妹に恋次が用意するものとなれば、味はまず間違いない。これはかなり期待ができそうだと、ようやく浮き浮きし始めた。


 そうして、やちるはルキアに連れ出されて朽木邸を後にした。


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