◇BLEACH if…
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 やちるは化粧品を持っていない。
 乱菊からは羨ましそうに何時も言われる。
「いいわねぇ…あんたの肌はピチピチのつやつやで」
「らんらんだって、つやつやじゃない?」
「ふ…言いたくないけど、年には勝てないのよ…。ああ、もう小憎たらしい」
 そう言いやちるの頬を引っ張る。
「らんらんー?」

 何かある度にそうやって乱菊とやちるはじゃれていた。

 そして、ある時同じようにじゃれていて、ふと思い出したのだ。
 やちるは自室に帰って来てから鏡台の奥を探った。
「あった!」
「ん?」
 肘枕で横たわって昼寝していた剣八がやちるの方へと向く。
「ふふ、剣ちゃんが初めてくれた口紅よ」
「そんなもんやったか?」
 剣八はすっかり忘れている。
「そーよ。剣ちゃんが初めて選んでくれた紅」
 小さな二枚貝を大切そうに掌に乗せて剣八へと見せる。
「もう、中身使いきっちゃったけどね」
 貝の内側には、うっすらと紅の跡が残っていた。
 今では自分で選んで買うようになってきたが、この時の印象が強くて似たような色をつい選んでしまう。

「ふうん…」
 剣八は興味のない様子を装っていたが、しっかりと思い出していた。あまりに照れくさくて恥ずかしい思い出だったので、自ら記憶を封印していたのだ。

 結婚しても、やちるはまだまだ子供っぽく、色合いもそのような物を選びがちだ。乱菊にいらぬ知恵を着けられて、極端に色っぽいものなどを選んで来ることもあるが、それは正直な所剣八の趣味にはそぐわないしやちるには似合わないと思っている。
 そして、ふと思いつき体を起こした。
「剣ちゃん?」
「ちょっと出てくる…」
「あたしも行く」
「来るな」
「えー!!」
「来るなよ」
「…ぶー…」
 剣八が釘を刺すとやちるは頬を膨らまし抗議するが、剣八が来るなと命じた以上やちるは逆らわない。さっさと背を向けて隊舎を出た。

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あきゅろす。
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