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準備は整った





「ゔお゙ぉい、兄ちゃん」

街を歩き、ある宝石店を眺めていた時、背後から何やら聞き心地が最悪な声が聞こえた。
ハスキーな上に濁音混じりの怠そうな声。
振り向くと、一見男なのに一際目立つ銀色の、髪がやたら長い警官が立っていた。

ザンザスは眉間に皺を寄せ店へと視線を戻すが、無視してんじゃねぇ、と肩を掴まれた。
舌打ちをせずにはいられない。

「アンタだよ。まさか盗もうとか思ってねぇよなぁ?」
「…警察のくせに市民を疑うのか」
「最近物騒だしなぁ。アンタ極悪面してっし」

なんとも失礼極まりないことを言われ、ザンザスの眉間はより一層険しくなる。

「退け。邪魔だ」
「まぁ世間話でもしよーや。暇なんだ」

もう一度退けるように言うが、その警官はすでにべらべらと話し始めていた。
コイツは今抜け出したら絶対追いかけてきてああだこうだ言い始めるタイプだろうから聞いてやるか、と思いザンザスはその場に留まった。

その警官の話は、今日この店の店主が近くにある別荘で金持ちや著名人を集めてパーティーをやるそうで金も宝石も何もかも集まるわけだから自分と他の警官でパーティーの間別荘を警備していなくてはならないのだがその仕事は泊まる客もいるから明け方までと頼まれていてそんなの専門業者に頼めと言ったらその業者は今の時期人手不足だそうで足りない分を馴れ馴れしくも"仲のいい"自分にと言うもんだからほんと面倒なことに巻き込んでくれたなここの店主は頼むから貴重な睡眠時間を返してくれ、というただの愚痴だった。

パーティーがあることはザンザスも知っていた。と言うのも、そのパーティーの招待客だからである。
この後もこの警官に会うのかと思うとうんざりする。
チッと舌打ちしてその場を去ろうとすると、その警官は誰かに愚痴れたことですっきりしたのか、ありがとなぁと一言言ってすんなり解放してくれた。
通りを抜けた所に待機させている車に向かいながら腕時計を見ると、どうやら警官の話に三十分も付き合わされていたらしい。
よく堪えたものだとザンザス自身思った。





そしてその夜。
ザンザスは女を連れてそのパーティーに出席した。
目的は、とあるマフィアの御曹司の暗殺。さすがに人が多いので任務はベルに任せた。自分に比べて小柄なベルならこの人混みの中でも身動きできるだろうし、難無く熟すだろうというザンザスの意向だった。

『ボス、そろそろやっちゃていー?』
「さっさとしろ。俺は帰る」
『待っててよ。今片付けるからさ』

ベルからの無線が切れた途端に、会場の照明が全て落ちた。
会場が一気にどよめく。

かったりぃ。

心の中でぽつりと呟いて、ザンザスは騒ぐ人の合間を縫って外に出た。

蒸し暑かった中にくらべ、外は夜風が冷たく心地好かった。
少し遠くからの女の悲鳴を聞きながら車はどこかと辺りを見回す。
あちこちで警備員たちが慌ただしく動いているが、そんなものは気にしない。
警備員たちもザンザスに気など止めはしない。

しかしながら一人だけ、

「ゔお゙ぉい!!アンタ止まれぇ!」

聞き覚えのある独特な声と引かれた腕に振り向けば、銀色が月光で妖しく輝いていた。

「あ、昼間の兄ちゃんじゃねぇか!アンタも出てたんだな!」
「…何の用だ」
「あ、中で何起こってんだ!?俺今まで外回りでわかんなくてよぉ、入ればこれだしさぁ」
「……」

ここでザンザスが"人を殺させてます"などと言うわけもなく、勿論奇麗にスルー。
警官も警官で、使えない奴だとか思ったのだろうか、あまり気にせず邸内へと向かうため足を進めた。

ちょうどその時。

「おっと!すまねぇな」
「ししっ、ちゃんと前見て走りなよ」

警官は少年と思わしき人物と思いきりぶつかってしまった。
少年は気にすることなく再び走る。
ボス、と。
楽しそうな声で、彼の目の前を行く男に呼びかけながら。

警官は勢いよく体を捻る。
そして気づく。
月明かりに照らされた体が、キラキラと光る、液体に濡れていることに。
自分の体と、あの少年の体が。

「待ちやがれテメェらぁ!!」

咄嗟に引き抜いた拳銃の銃口は勿論その先の二人に。
一瞬目が合ったがそのまま視線を外され、よく耳を済ませば、ボスの女も殺してきた、と愉快に話す少年の声が聞こえた。
そしてそのすぐ後に銃声が鳴った。

「…こ、今度は外さねぇからなぁ!」
「なんだー、王子と遊びたかったんなら最初からそう言えば…」

懐からナイフを取り出し妖しく笑うベルをザンザスは腕を以って制した。
そして一歩ずつ、警官と距離を詰める。
再び銃声が鳴った時にはザンザスは警官の目の前にいて、弾丸は彼の左足をかすめていた。
警官こめかみを掴んで頭を地面にたたき付け、その手に炎をともした。

「がっ…!!」
「ハッ。威勢のいい犬だな。気に入った」
「テメ…っ…やっぱそっちの人間だったのか…!」


「地獄に堕ちろ」


一瞬白い世界を見て、警官の意識は闇に堕ちた。











ザンザスは今日も街を歩く。
先日の事件のことでザンザスの関わりを知る市民は誰もいない。

とある時計屋の前で足を止めた。
ショーウインドウに並ぶのは、どれも宝石で綺麗に飾られているものばかりだ。
その値段はザンザスにとって痛くも痒くもない。

そういえばアイツは腕時計を持っていないと言ってたな…まぁ買うつもりはないが。

飾られている時計を見ながらいろいろ考えていると、肩を叩かれた。

「ゔお゙ぉい、それ買うのかぁ?」

横を見ると、銀色をした長い髪の警官が立っていた。
長くて邪魔そうなそれは一本にまとめられている。

「まさか」
「あっそ。俺にくれるんかと思った」
「かっ消すぞドカス」
「あ、そういえばよぉ、」

ザンザスの凄みなどものともせずに、肩に手をかけたまま警官はべらべらと喋り出す。
簡単に振りほどくことはできるが、後がうるさいからザンザスはそのままおとなしく聞いてやることにした。

その警官の話は、今日この店の店主が近くにある別荘で金持ちや著名人を集めてやるパーティーの警備員に馴れ馴れしくも"仲のいい"自分にも加わってほしいと言うもんだからどこかのこそ泥みたいにわざわざこっそりと入らなくてもよくなったわけだがそうなると警備の仕事を最後までやんないと怪しまれるわけだから取り敢えず休憩時間あたりに標的をぱぱっと片付けてあとはのんびり見物してるから完了予定時刻よりだいぶ遅くなるがまぁ手土産に厨房から高そうな酒掻っ払ってくるから頼むから報酬は落とさないでくれ、というお願いだった。

「…全員消せばいいものを」
「あ、いいのか?んならそうする。早く片付けてぇし暴れてぇし」
「……」

紛い物とはいえ、国の犬とは思えない発言にザンザスは顔を顰める。
自分が今どんな格好をしているのかこの警官は自覚があるのか。
いや、自覚を忘れたのか、と言うほうが適切かもしれない。

「どうでもいいがへましたらかっ消す、"スクアーロ"」

「了解したぜ、"ボス"さんよぉ」

スクアーロと呼ばれた警官は不気味な笑みを顔に浮かべ、陰に消えていった。

ザンザスは店の中に入る。
店主が怯えた瞳で見る中、ある一つの腕時計に手を伸ばした。

「釣りはいらねぇ」


後で取立屋が来るからな―……


さぁ、パーティーの始まりだ



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スクアーロは多分薬かなんかでいろいろどーにかなっちゃったんだと思いますがそこは皆様のご想像にお任せ←

遅くなって大変申し訳ありません;;
XS企画"Amare∞Ti Amo"様に捧げます。
ありがとうございました!


あきゅろす。
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