テレビの中の君は輝いていた
学校から帰ってきて、すぐにテレビをつけた。
そろそろニュースがあちこちで始まる時間だ。
とあるチャンネルをつけると、ちょうどスポーツの特集をやっていた。
剣道の全国大会。
勿論一般の。
それの優勝インタビューだった。
画面には多数のマイクとカメラのフラッシュに顔を顰める
俺の恋人、神田ユウ。
どこかのプロゴルファーみたいに、史上最年少で全国一を勝ち取った。
"史上"とか"優勝"って文字に目がないマスメディアは遂に、(ユウ曰わく)神聖な剣道の試合の場に手を出し始めていた。
きっかけは一昨年のインターハイで、高校一年生にして個人で優勝を飾ったこと。
それからユウが大会で優勝する度にマスコミが押し寄せるようになって、本人はうんざりしていた。
それでも律儀な彼はインタビューを受ければちゃんと答えるんだ。
今だってそうだ。
優勝の感想を聞かれて、端整な顔をより一層引き締めて自分の心の内を語っている。
『勿論嬉しいです。でも俺はもっと上を目指します』
『それは世界を目指すということでしょうか』
『はい』
格好いい。
ただその一言しか思いつかない。
生き生きと自分の夢を話すユウは眩しすぎる。
ピカピカと輝きすぎだ。
まぁそんな彼を誇りに思うけど。
でもね……、
ガチャリ、戸が開く音がした。
ジジイか、そう思ったけど、実際にいたのは
「え、ユウ!?」
そう、ユウだった。
「お前な、家にいるからって不用心にも程があるぞ」
何回インターホンを押しても俺からの返事がなく、ドアノブに手をかけたら鍵がかかっていなかったからそのまま入って来たのだと彼は言う。
「あ、え…、いや、なんでいんの!?帰ってくんの明日じゃ…」
「予定が早まっただけだ……いちゃ悪ィのかよ」
少しむくれながらユウは言った。
あ、可愛い。
なんて思ってる間に、俺の横、ソファーの残りのスペースを存分に使い、脚を組んで背もたれにもたれ、リモコンでチャンネルを次々と変え始めた。
への字に曲がった口からは、へー、ふーん、と実に不機嫌そうな声が漏れている。
「ユウ、優勝おめでと」
ユウの肩がピクリ、と反応した。
少し照れ臭そうに俺に振り向いたユウの口は相変わらず強気で
「ハッ。当然のことだ」
と、スッパリ。
でもすごく嬉しそうだ。
『――続いてのニュースです。昨日、剣道の神田ユウ選手がまたもや全国優勝を飾りました。――………』
「…どこつけてもユウで持ち切りさね」
「あぁ…」
ユウがかけたチャンネルでもスポーツのニュースが入った。
気恥ずかしいのか、さっきからテレビから視線を逸らしたままだ。
「また有名になっちゃうね」
「…嬉しくない」
「…うん、俺も嬉しくないさ」
「は?」
なんでお前が、というような視線を俺に向けたユウ。
まぁ普通なら、身近にいる人、例えば友達や家族や親戚ならば、自分のよく知る人が有名になれば嬉しいし、鼻が高いし、自慢できる。
これが自分の知っている人なのだ、と。
でもね、ユウ。
俺は恋人なんさよ?
「またユウに近寄る虫が増えちゃうさ」
今だって絶えない告白に困ってるのに、これ以上ユウのこと好きな奴が増えたらどうしてくれるんだ。
それはもう、光る電球にたかる虫のようにうじゃうじゃと。
「ユウを好きな奴は俺一人で十分さ」
ぎゅう、とユウを抱きしめた。
久しぶりに吸い込むユウの匂いに胸が高鳴る。
ばっかじゃねーの、そう耳元で小さく聞こえた。
「ね、ユウ」
「何……っつ」
チュ、露になっている首筋に強く吸い付く。
ある一点だけが濃く赤く色付いた。
「テメェ…見える所につけやがったな、バカ兎」
「見えなきゃ意味ないさー」
別に馬鹿でも構わない。
馬鹿でいいから、せめて、
「だって虫よけだもん」
ユウを好きな人が増えないように、世の中の全てのテレビを砂嵐にすることだけはやらせてね。
テレビの中の君は輝いていた
(現時刻をもって、スノーノイズを展開する!)
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あれ、なんかお題からそれているような……
そして読みづらくてごめんなさいorz
一応、キスマーク=砂嵐。
もう見てらんない!的な…伝わってるとうれしいです。
企画"君がいた公園"に捧げます。
参加させていただき、ありがとうございました!
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