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落下宣言



小さい頃からずっと一緒だけど、彼は年々美人になっているような気がする。
男の俺が見惚れるほどに。
スタイルもいいし、顔もいいし。
いや、そこら辺は俺も負けてる気はしないけど。

けど、モテ度は彼の方が上だ。

女の子達が言うには、クールな所がいいらしい。
俺だってクールさ!って言い張ったら、ラビはおちゃらけキャラだからダメ、って言われた。

そんな女の子達は、俺に彼への紹介を求めてくる。
俺が見る限り、彼は近寄る女の子をこっぴどく振っている。
にも関わらず、諦めずに告白する女の子の勇気には完敗で。
からかい混じりにどんどん紹介していった。

そんなある日。

学校の廊下を歩いてる時に中庭に視線を向けると、木陰に彼が立っていた。


「ユウー!」


窓から身を乗り出して手を振ると向こうも気付いたらしく、親指を下に向けられた。
んー、相変わらずな反応。

やり返してやってると、脇からなんか走ってくる女の子が見えた。
よく見てみたら、この間彼に紹介した女の子だった。
ボンッキュッボンッのめっちゃ俺好みな子。
紹介頼まれた時に、俺にしとけば?って言って振られました。

いいなー、でも振るんだろうなー、なんて罰当たりな奴なんだユウちゃんは!

そう思いながら告白の一部始終を見ていた。

告白して、振ったとこまではよかった、いつも通り。
でも違ってたのはその後。
何言ってんだかわからないけど、揉めてるみたいだった。
彼がたじたじになってるのが見えて笑えたけど、それもつかの間。


「え……」


思わず声が出るほどの衝撃的映像。
ぶちゅーって効果音出そうなほどの濃厚キッスを噛ましていた。
それで気が晴れたのか、女の子はスキップしながらどこかに消えてしまった。
残された彼は石のように固まり、俺もまた同じように固まっていた。


よく考えてみたら、彼に彼女が出来たら、その娘と一緒に登下校したり、デートしたり、手を繋いだり、キスだってするんだよな。
その分彼女といる時間も増えて、俺と話したり遊んだりすることって少なくなるよな。
当たり前って言えば当たり前のこと。
そのくらい常識の内に入れてたつもりなのに、いざ目の前にしてみるとなんか嫌で、少しズキッてした。


「ちょっとラビ、聞いてる?」

「ん?あー…ごめんごめん」


放課後も相変わらず、彼好きの女の子に囲まれて紹介を頼まれていた。


「紹介してくれるんでしょー?」

「…おう」


――ズキッ


「今度一緒に遊びたい!」

「……わかったさ」


―ズキッ


胸の奥がズキズキと痛む。
別に悪いことやってるわけじゃないのに。
でもなんか不快で仕方ない。


「…あんさ、やっぱ今の無しにしてくんない?」

「はぁ!?何言ってんの?最悪ー」

「俺から見れば努力もしねぇテメェらの方が最悪だけどな」


その声に振り向くと不機嫌窮まりない彼が立っていた。


「帰るぞ、ラビ」

「え、あ、うん…」


女の子達のブーイングを背中に受けながら、ドキドキ高鳴る鼓動を無視して、彼に腕を引かれて教室を出た。
掴まれているその部分が、妙に熱かった。

それから何も会話しないまま、いつものように、同じ道を歩いてた。
正直、気まずい。
でもさっきみたいな不快感は感じなかった。
会話のない空気に堪えられず、俺は口を開いてしまった。


「ひ、昼休みのキス、すごかったさね!」


途端に顰められた彼の顔。
やっぱりこの話題は駄目だったか、と自分の選択を恨む。


「…口ベタベタで気持ち悪かった」

「あ、あー…グロスね」


意外にも、素直に話した彼に内心びっくり。
キスされたの満更でもなかったのかなー……何を思ってこの唇は受け止めたんだろう。


「……おい。顔近い」

「あ、ごめん…」


うわ、何やってんだ俺は。
ちらっと横目で彼を見る。


「…ユウ、顔赤い」

「そ、それより、お前、珍しく断ってたじゃねぇか」

「うわー、なんちゅー話の逸らし方」

「うるせぇっ!…、なんかあったのかよ」


少し不機嫌になった彼はどうやら俺の心配をしてくれているらしい。


「んー…なんかさ、昼休みのアレ見て、グサッと来たんだよね」

「…は?」

「で、授業中考えてみたんよ。ユウに彼女出来たらデートとかキスとかエッチとかするわけじゃん」

「生々しいな…」

「そしたら一緒に馬鹿やれる時ってなくなるだろ?そう考えたら、こう…ズキズキッと」

「なんだ、随分と友達思いだな」

「…それとはちょっと違うかもしれないさ」


触れた熱も、ドクドク脈打つ心臓も、きっともう誤魔化せない。
これは"友達"には有り得ない反応だから。


「俺……ユウのこと好きなのかもしれない」


少しの間が流れる。
やっぱ引かれたかな。


「…かもってなんだよ」

「保険。まだよくわかんないから」


っていうのは嘘で、男同士の恋にまだ抵抗があるから。
俺は臆病者だから、まだ踏み出せないんだ。


「…、やっぱ今の忘れて」

「早くおちろ」

「…へ?」

「今更なんだよ、お前」


気付けば彼の顔がものすごく近くにあって、唇同士が少し触れ合っていた。
俺を押し返すように離れた彼は俯いていて顔はよく見えなかったけど、耳まで真っ赤に染めていた。


「俺がなんで告白断り続けてるか知ってるか?…ハッ、知るわけもねぇよな」


自嘲気味に言い捨てた彼の次の言葉に俺はエンジンをかけられてしまった。


「おちろよ、俺に。…好きだ」



俺が選んだ道は間違っていない。
このまま突っ走って、

さぁ、落ちようか。







落下
(崖からへダイブ、)
(願わくば、キミと溺死)


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なんかやたらと長くなってすみません;;
書き始めたら楽しくて楽しくて。

素敵企画に参加させていただき、ありがとうございました。



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