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アイスが溶けるその前に

※現代パロ












昼間の、コンクリートからの熱気と梅雨の湿気の混じった蒸し暑さとは違って、夜は冷たい風が吹き、火照った街を冷ます。
その割に、自身の体は余熱を持ったままで、纏わり付くシャツが気持ち悪い。
エアコンをつければいいのだが、生憎故障中で、扇風機もなく、窓から入る風だけが救いだ。

いっそ外にいた方が少しはマシだろうと、財布を持ってアパートを出た。

こういう時、近くにコンビニがあるというのはとても便利で、好きなだけ涼しい店内に居られるし、雑誌や漫画も立ち読みし放題だ。
しかし、流石に1時を過ぎると、睡魔が活気づいてきた。
出張していた仕事先からやっとのことで帰ってきて、ちょっとした夏休みに入れたのに、もう寝るなんて時間が惜しい。
眠気覚まし用に二個入りアイスを一つ、それと大人の聖書を一つ、会計をしていると、コンビニ独特の入店合図の電子音が鳴った。
こんな夜中でも人が来るのかと振り向けば、暫くご無沙汰だった顔に二人の声が重なった。





「悪いな、アイス」

「いいさ、二個入りだし」


チカチカと点滅する、切れる寸前の電灯の下をアイスを咥えて並んで歩くは恋人の神田。
足りない脳を精一杯活用して、晴れて大学生となった彼もまた、夏休みらしい。


「帰ってきてんならメールくらい寄越せよ」

「そんなんしたら俺、会いたくて我慢出来なくなっちゃうさ」


不意に右手を握られ、その意外な行動に目を丸くした。
見ると、不機嫌そうな顔でアイスの棒を咥えていた。


「…今も我慢してんのか?」

「…いいや、してない」


棒を抜き去り口付けた唇は、ほんのりソーダの味がした。









「…あっぶねぇ……」


部屋に入った途端、ドアにもたれてずるずるとへたりこんだ。
まだ食べていないアイスと聖書が入ったレジ袋を脇へ追いやる。

あまりに忙しい仕事と、スケジュールの都合でたまにしか会えなかった恋人。
高校を卒業して彼は随分と大人びたと思っていた。勿論、自分も。
その分、前なら絶対にしないこと、さっきの手を繋ぐというようなことをするようになった。
彼なりの甘え方の一種なのだろうと思えばそれはそれで丸く収まる。
だが、出張やら何やらのおかげで、ただでさえ神田不足なラビにとっては打撃が強すぎた。

頑張った俺の理性、と褒めてみる。

ふぅ、と息を抜き立ち上がったところで携帯電話が震えた。
ディスプレイを見ると、ついさっき別れたばかりの彼からの着信だった。


「どーしたー?」

『…会いたい』

「…またまたぁ、さっき会ったばっかだろ?会うなら夢でな」

『………クソ兎』


途端に鳴り響くドアを叩く音。
それは明らかに自分の部屋から聞こえるもので、しかも何故か携帯電話の向こう側からも聞こえてくる。

まさかと思い、急いでドアを開けると、携帯電話を片手にした息の荒い神田がいた。
どうやら走ってきたらしく、額にうっすらと汗をかいていた。


「ユ…」

「邪魔するぜ」

「はっ!?ちょっ、タンマ!」


神田の入室を阻止すべく、ドアを閉めようとしたが、足を挟まれ閉めることができなかった。
尚も入り込もうとしている神田を入れないようにと力をこめる。


「早く入れろよッ…近所迷惑だろッ!」

「ユウの方が近所迷惑じゃんッ…今何時かお分かり!?1時過ぎてんさッ…!!」

「だから入れろっつってんだろッ…!」

「それにほらっ…エロ本散乱してっしッ…散らかってっから!」

「今に始まったことじゃねぇだろうがッ…!」


言い争ううちに顔、腕、結局はするりと全てが入り込んでしまった。
ラビは負けてしまったのだ。


「…何の用さ」


わざと冷たく当たってみる。
全ては理性を守るため。


「うるさい」

「もうガキじゃねぇんさ。わかってんだろ?」


逃げられないように細身の体を抱き上げ、壁へと押し付ける。
意外なことに抵抗はなく、何か言いたげだった。


「何?文句あんの?自分から来たくせに…」

「…っ」


鎖骨から首筋、顎へと唇を伝わせ、抵抗することを願いながら口へと近付く。


「お」

「お…?」

「、おかえり」


いつも予想外なことをするのは重々承知だ。
だが、おかえりと言うためだけにわざわざ会いにきたと誰が考えるだろうか。



でも取り敢えず、愛しい君へ。



「ただいまっ!」




(んじゃ美味しくいただきます)
(っ…それより、そこの水溜まりは何だ?)
(ん?ギャー!!俺のアイスとエロ本がー!!!!)
(……近所迷惑)






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こんなの神田じゃないってわかってるけど可愛くて暴走してしまった←
設定としては、ラビが新米会社員で、神田が大学生です。






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