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お前が見ていいのは俺だけ




数体のAKUMAを破壊し、任務完了の報告を入れた後、ラビに誘われて神田は滅多にない寄り道をした。

来たのは任務地の城下街。

商売に活気づいている街は人で溢れ、神田は堪えられんとばかりに壁によっ掛かって立っている。


「ユウ、あっち行こうさー」

「嫌だ、一人で行け!」


ラビに手を引かれても尚、その場に居続けようとする。
そもそも、神田は無理矢理連れて来られたのだ。乗り気など更々ない。


「おーねーがーいー」

「だから俺は…」

「あっ!ユウちょい待ってて!」


今まで腕をぶんぶん振り回していたとは思えないほど、すんなりと手を離して、ラビは人込みの中へと入り込んだ。
ちらほら見える赤い髪が彼の居場所を教える唯一の物で、それもすぐに消えた。

急に一人にされ、ちょっとした虚無感に襲われる。
一人で任務をしている時は全く感じないのに、たまにこうしてラビと共にすると、直ぐ感じてしまう。

今必死に赤毛をさがしている自分が何よりの証拠だ。

背伸びをすれば案外見えるもので、直ぐに見つけ、あまり遠くに行っていないことがわかった。
しかし、この人だかりは神田にとって苦である。


まぁ直ぐに戻って来るだろうと思い、待つこと数十分。



一向に帰って来ないラビにそわそわし始めた。
ひょっとしてAKUMAがまた出たのではないだろうか、
目眩く思考はだんだんと暗い方へ流れていった。


意を決した神田は、ラビがいるであろう人込みへと紛れていった。
次々とぶつかってくる人々に舌打ちを繰り返しながらも突き進む。

先程ラビを視認した場所に着くも、そこにラビの姿はなかった。

擦れ違ったか、はたまた本当に戦闘に入ったのか、
騒ぎがないことから後者はないだろうと見切ったが、いない事実に変わりはない。

はぁ、と溜息をし、元いた場所に戻ろうと足をかえした。

そしてその視線の先には、全く見当たらなかったラビの姿があった。


「チッ、あのクソ兎め…」


先ずは何を言ってやろうかと考えながら、再び人込みの中を突き進む。
手が届きそうな距離までやっと辿り着き、声をかけようと名前を口にしかけたが、神田は硬直した。

自分達より少し年上に見える、花売りらしき娘がラビの腕に絡まり、何故か二人仲睦まじく話しているのだ。
しかもその娘はラビのストライクゾーンど真ん中で、神田から見ても確かに美人なのだ。これでラビが黙っている筈がない。


気付いた時には、神田はラビを強引に引っ張っていた。


「あれっ、ユウ!?」

「何デレデレしてんだよ馬鹿ラビ!」

「はっ?う、えぇ!?」

「あら、女いたのね。じゃあね、お兄さん」


先程までいた娘は神田が現れた途端に女だと勘違いして、そのまま人込みに身を眩ませた。

この際勘違いされても構わないと思ってた神田は娘が消えたのも確認せず、近くの細い路地にラビを連れ込んだ。


「ちょっ、ユウなんでいるんさ。待っててって言ったろ?」

「それより何なんだあの女は!やたらとベタベタしやがって…」

「……ねぇ、ユウそれヤキモチじゃん」

「……は?」


しばらくの間の後、神田の顔はみるみるうちに赤くなった。


「ち、違っ」

「えー?じゃあなんでそんなどついてくるんさ?」

「それはお前が女と馴れ馴れしくしてるからっ」

「ほらーヤキモチじゃん。それとも……ヤキモチだって認めたくないくらい、俺のこと嫌い?」


今まで本人でさえ分かるくらい頬が緩んでいたのに、一瞬にしてラビの顔は悲しげになった。
ドキリ、と神田の心臓が跳ねる。

誰もそんな事言っていない、と言ってもラビが詰め寄ってくることは知れている。
そうでなくとも今まさに、ねぇ、と詰め寄ってくるのだ。


「嫌いなんさ?好きでしょ?」

「…お前のその自信は何処から沸いて来るんだ」


未だ悲しげな顔をするラビの顔を挟んで引き寄せ、強引に唇を寄せた。




「お前は俺だけ見ていればいいんだ、馬鹿兎」




真っ赤な神田の視線の先にはマヌケ面のラビがいた。






(ユウってたまに、物凄いこと言うよね)
(うるせぇ!)




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本当はラビが神田に花をプレゼントするはずだったんだけど、どこかでズレた………?




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あきゅろす。
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