小説(中編)
―8―
剥き出しの憎悪を向けられる相手を得、その心は多少なりと満たされるのだ。
颯爽と此処から出て行くオリフラムを確認した後、シーヴァスは口を開く。
「母上、貴女はすべての人間を愛し慈しんだ。けれど、その愛した人間に裏切られた。残念なことに俺の言う通りになってしまいましたね」
本当に悪い人なんていない、と口癖のように言っていた慈悲深い母親の姿。
幸福を絵に描いたような穏やかで満ち足りた日々を奪ったのは、その母親が信じ愛した『人間』と言う存在。
愛しくも憎い人間。
「このままでは、俺の大事な人も取り上げられかねないと思うのです。だから、絶対的なものを手にしないときっと守れない…。母上、俺はね、大事なもの以外はどうでもいいと言う人間なんですよ?」
知らなかったでしょ、と冷淡にも見える笑みを見せる。
けれど、どこか優美ささえも持ち合わせて。 家族の前では素直で従順と呼べた素顔と、一戦を越えた時に見せる冷淡な姿。
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