しらない
授業が終わる毎に俺の所へ来るこいつらは本当に物好きだ。
「潤。」
俺の左腕に抱きついた三郎が俺を呼ぶ。
「潤。」
反対の腕に抱きついた雷蔵が俺を呼ぶ。
「「大好き。」」
「…そうか。」
「「うん。」」
声をそろえる2人に困惑していると、前に座っていた史明が俺を見て笑う。
何故かむっときたので、片足で背中を蹴り飛ばしてやった。
「いって!?なんだよ潤…。」
もー。とか呟いて俺たち3人を眺める史明。
「いいなぁ。俺も混ぜてよ。」
「「やだ。」」
「……ケチ。」
両肩に2人の頭の重さを感じながらそんな3人を見てぼんやりする。いつもと同じ日常だ。
「あっ、いたー!」
そこへ異質な少女の声が飛び込んできた。教室が色めき立つ。
見ると教室の後ろの戸からあの女が入ってきた。
「こんにちはっ、雷蔵君、三郎君!」
「………どうも。」
元気良く俺たちの前に座る彼女に、雷蔵が感情のない声で返す。三郎にいたっては返事もしない。
「あ、あのね、2人とお話したくて来たんだけど…だめかな?」
2人の反応に彼女は目を潤ませて俺たちを見る。
両隣で2人が苛立つのが分かった。
「………悪いけどもう授業始まるから。」
「えっ、でも、あの…」
ちらちらと俺たちを見ては俯く彼女に、自分が冷めていくのが分かる。苛立ちを通り越してもうなんとも思わない。
俺の腕を痛いほど握る二人を促して俺は立ち上がった。
「ろ組に行くまでなら、構いませんよ。」
「「!?」」
「あ、ありがとう!」
二人は驚き、彼女は嬉しそうに俺を見る。2人の抱きつく腕に力がこもった。
きっと俺は酷い顔をしている。
貼り付けた薄い笑みはどんなものか、自分では分からないがこんな風に表情を作ったのは初めてだ。
…あぁ、胸糞悪い。
両隣の二人の手を握る。
驚きながらも顔を綻ばせる2人はきっと俺の安定剤に近い。
ずっと話していた彼女の声は、少しも俺たちの耳には入らなかった。
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