はじめまして
青い空の下、水色に井桁模様の装束を着た子達が手裏剣の実技をしている。
「おーい、次裏々山だってよー。」
「あぁー。」
教室の窓から校庭を見下ろす俺に史明が声をかけてきた。あいつは実技が得意だから授業が楽しみで仕方ないんだろう。
窓を閉めて立ち上がる。
ここは忍術学園。
平成の時代には決して存在しない忍者を養成する学校だ。
この世界に来たのは、もう十数年前の話だ。
その日、いつものように帰りの電車に乗っていた俺は部活の疲れと電車のゆれにうつらうつらしていた。
『次は〜…』
朧な意識の隅でアナウンスがかかる。あぁ、次の駅で降りなければ…。そう思ったときだった。
耳を裂くような金属音と急激な衝撃が俺の体を襲った。視界が揺れ、体に痛みが走る。
何が起こったのか理解する前に、俺は意識を失った。
――――――…い…!
――――――…まの…かいへ…!!
記憶の隅に存在する知らない少女の声。
それが誰のものかはわからない。その言葉も、回転しない俺の頭は理解しなかった。
そして次に俺が気づいた時は、信じられないことにこの世界だった。
「今日の授業はここまで。各自鍛錬に励むように!」
先生の声を合図にがやがやと生徒が学園へ戻りだす。
泥だらけになっている史明に手を貸して俺たちも学園への道を歩き出した。
「あー腹減った!今日の定食なんだろ?」
「さぁな。昨日新鮮な魚が入ったって言ってたから多分魚料理だろ。」
「よっしゃ!」
無邪気に笑う史明。
この世界はわりと平和で西洋かぶれだ。妙に現代用語も存在するからある意味生活はしやすい。
BASARAや無双の世界にでも飛ばされていたら今頃俺は死んでるだろう。
午後の授業はまた座学だ、とか今度の休日の計画を話したりしているうちに学園へ着く。先生が小松田さんにサインを求められているのを横目に食堂へ足を向ける。
多少装束が汚れているがもう時間もないので申し訳ないが勘弁してもらおう。
「お、なんかいい匂いする!」
すんすんと鼻を鳴らした史明が食堂へかけていく。その姿を犬みたいだと思いながら俺も追った。
ざわざわといつもより人の多い食堂。この時間なのにおかしいと思いながらやっと食堂へ入れる。
「はい、どうぞ!」
そして、突然聞いたことのない少女の声を聞いた。
後輩たちが群がる中、揺れる茶色の髪が見える。
耳に残る可愛らしい声。
そうだ、この声は…
「あ、五年生ね?」
薄れ掛けていた記憶がフラッシュバックする。
それは、あの日の電車の中。俺の正面に座った茶髪の可愛い女の子。
――――――忍たまの世界へ!
声と記憶がつながる。
あぁ、そうか。だから俺は……
「私は七瀬真澄!よろしくね!」
その時、俺はすべてを理解した。
そして綺麗な笑顔を見せる少女に、その場から動けなかった。
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