彼女の笑顔
「ねぇ、留三郎君。」
綺麗な声が俺を呼ぶ。
その声は、俺の隣を歩く真澄さんのものだ。
「なんですか?」
俺より年上なのにとても可愛い彼女は、少し前、突然空から降って来た。(俺と伊作が助けた。)
『平成』という所から来たらしい真澄さん。
明るくて優しくて甘い彼女に、俺たちはすぐ夢中になった。
伊作も仙蔵も、あの文次郎でさえも彼女の隣を気に入っている。
「東隠潤君の事、教えて欲しいの。」
けれど彼女の瞳に映るのは俺でもなければ伊作や仙蔵でもない。
五年の東隠潤。
背が高く整った顔をしているが表情の変化が分かり難い後輩だ。
俺は奴の事を気に入っているし仲も良かった。(と思う。)
だから悪い奴では無いと分かっている。
けれどやはり彼女が奴の事ばかり想っているのを見ると胸が痛んだ。
「…あいつは、火薬委員で」
東隠の事を聞く真澄さんはとても幸せそうに笑う。
たとえどんな理由でも彼女が笑う姿を見るのは嬉しいのだ。
この複雑な思いは誰も同じようで、彼女が笑うためならと六年みんなで決めた。
三禁を破り女にうつつを抜かすなど、今の自分たちは忍者として失格だろう。
しかし彼女の笑顔は俺たちのすべてだった。
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