かわいいひと 「だ、だれかぁ〜〜!」 委員会の時間、火薬の整理をしていた俺は火薬庫の奥からの情けない声を聞いた。 「すまん東隠!タカ丸を手伝ってやってくれ!」 「はい。」 火種を持ってわたわたしている1年に苦戦していた土井先生がそう叫ぶので、俺は手をとめ慌てて倉庫へ飛び込んだ。 「斉藤さん?」 「あ、潤君!たすけて〜〜!」 火薬壺が崩れたのか、奥で壺に埋もれている金髪が見えた。 急いで彼を助け出し丁寧に壺を棚に戻す。 「大丈夫ですか?」 「うん〜、なんとか〜。」 床に座りこんで目を回しているこの人は、俺より一つ年上の後輩だ。ややこしい人である。 さらに、大人びていて俺より背が高いのになんとも抜けている人である。 ごめんねぇ。と緩い笑顔の斉藤さんに手を貸して立ち上がらせる。 「怪我は?」 「ないよ。ありがとう、潤君。」 「気をつけてくださいね、斉藤さん。」 「うん。ごめんね。」 そう言いながら俺の手を握った斉藤さんが綺麗な笑みを浮かべる。…この人は自分を良く知っている人だ。 「苗字じゃなくて名前が良いなぁ?」 斉藤さんが首を傾げると金髪がきらきら揺れる。さすが髪結い師。髪の毛の手入れは完璧の様である。 「……タカ丸さん。」 「うん!」 呼ぶと無邪気な笑顔と共に「潤君大好き!」と甘い言葉が返ってきた。 ありがとうございますと笑い返して、手を繋いだまま火薬庫の外へ出た。 「きゃっ!?潤君危ない!」 その途端、あの女の声がして何かが飛んできた。反射的にキャッチして気づく。 こ れ 焙 烙 火 矢 ! タカ丸さんの手を離し、力いっぱい空へ放る。 裏山の方へと飛んだそれは空中で爆破した。 「……び、びっくりしたぁ〜…。」 タカ丸さんがそう言って俺の袖を握る。…可愛い人だ。 「ご、ごめんなさい!お手伝いに来たんだけど…!」 「……………火薬は危ないですから気をつけてください。」 手伝いじゃなくて邪魔だろ。と思ったが、なんとかそう搾り出す。 「う、うん!」 本当、何しに来たんだこいつ。 そう思いながらまたタカ丸さんと仕事を再開した。 もうさっきのようなハプニングがない事を祈る。 ←→ [戻る] |