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展示室
初めて浴びた血は温かかったかい?
お前の見ている世界は
どんな色をしているんだろう?

血塗られたその手は
一体何を求めるんだろう?


その答えを知る為に
お前はきっと………。





――めて浴びたは温かかったかい?――







アクゼリュスを崩壊させてからのルークは、見るに堪えない程荒んでいた。
自分の非を他人に擦り付け、それでいて被害者ぶって。
仲間達はそんなルークを見限り、離れて行った。


ガイを除いては。




「ルーク、たまには外に出たらどうだ?引き籠もってばかりだと余計気が滅入っちまうぞ」

ガイは主人であるルークの部屋の扉の前に立ち、声を掛ける。しかし、返事が返って来る事はない。

今日も駄目か…。
と、ガイはため息をつく。

魔界《クリフォト》から屋敷に戻って一週間程が経った。
その間ルークは自室に引き籠もり、自分の殻に閉じ籠っていた。
といっても、ずっと部屋にいるわけではない。
皆が寝静まった夜、一人何かを呟きながら徘徊するルークの姿を巡回していた兵士が目撃する事もしばしばあった。
そこから推測するに、ルークの精神状態はかなり危険だ。


「なぁ、ルーク。俺はお前を信じてるから…。気持ちが落ち着いたら出て来いよ?俺、待ってるから…」
返事が返って来ないのを知っていながらもガイはルークに話し掛ける。
今のガイにはそれくらいしか出来ないのだ。
自分はなんて無力なんだろうと思う。
しかし、たった一人でもルークの味方がいなければ。自分だけでもルークの味方についてやらなければ、ルークは………。

「ガ…イ…」
「…!?ルーク!!」
部屋から微かに聞こえるルークの声にガイは驚く。
ずっと心を閉ざしていて、会話らしい会話は全くと言っていいほどしていなかった。
それなのに突然ルークから話し掛けて来たのだ。驚かないはずがない。
久々に聞いたルークの声はか細く、掠れている。
ガイは優しく労るようにルークに話し掛けた。

「ルーク、どうした?」
「…ガイ、俺…わかんねぇ。どうしていいかわかんねぇよ」
「ルーク…」
「あの時救えたと思ったのに…!!何で…何でこんな…。皆俺だけ責めて、俺は被害者なのに…。ただ師匠にやれって言われたからやっただけなのに…。利用されただけなのに、どいつもこいつも俺が…俺だけが悪者みたいに見やがって…ッ!!」
「ルーク、落ち着け!!」
「ガイも…!!ガイもそう思ってるんだろう!?俺が全部悪いんだって!!お前もアイツらと一緒に行けば良かっただろ!?それとも何か?俺を嘲笑う為に一緒に屋敷に戻って…」
「いい加減にしろっ!!」
「……!!」

ガイの怒声にルークは息を飲む。
ガイがルークに対して怒りの感情をぶつけるのは、ルークの記憶上初めての事だったかもしれない。

「今更悔やんだって仕方がないだろ!!死んだ人間は蘇らないんだ。お前の罪は簡単に赦されるものじゃない。お前は一生その罪を背負って生き続けるんだ!!」
「あ………!!」

本当はこんな事言いたくないのに、ルークを否定するような言葉が次から次へ溢れ出す。

ルークを騙したヴァンも悪い。
それに気付かなかった自分達も悪い。
でも、自分が犯したその過ちを認めないルークも悪い。
ルーク自身、屋敷に戻ってからもずっと悩んでいたのだろう。しかし、やはり自分を保護する事しか出来ないのか…。
自分だけがルークの味方になってやらなければと思ってたのに、本当はルークに対してこんなにも大きな怒りを抱えていたのかと考えると、自分が恐ろしかった。
過ぎてしまった時を戻す事は出来ない。
ガイの言葉をルークがどう捉えるか。
前に進もうとするか、果ては更に自分の殻に閉じ籠るか。
それはルーク自身が決める事で、ガイが決定出来る訳ではない。


「……すまない。つい大声を…」

ガイの言葉が終わらないうちに、部屋の中の気配が動いた。
足音がこちら《扉》へ向かって来る。
ガイは何故か思わず身構え、その時を待った。

少しすると部屋の鍵が開けられ、ゆっくりと静かに扉がひらく。
視線が扉に、そしてルークに釘付けになった。

「ルーク…!!」

僅かに開かれた扉の隙間から覗くルークの姿が瞳に映される。
睡眠をきちんととっていないのか、精神的に参っているのか、目の下には黒いくまができ、頬は幾分かこけた気がする。

「ガイ…」
扉の間からルークは腕を伸ばす。伸ばされた腕がガイを捕らえようとしている。
ガイはその手を掴むと、力強く握った。

「ルーク…お前……」

その腕には幾つもの痛々しい切り傷がついている。
特に手首が集中的に傷つき、生々しい傷口はまだ治癒を始めていないのか、血が滴り落ちていた。

「なんて馬鹿な事を…!!」

手当てをしようとガイが慌てて扉を開けた時だった。


ドスンと鈍い衝撃がはしる。

何が起こったのか。


腹部が熱い。


そう思って視線を腹に向ければ、そこには深々と剣が突き刺さっていた。


「あ…あぁあぁああ!?」

おびただしい量の血液が床を赤く彩る。
赤い絨毯でも敷いたような、真っ赤な血液の水溜まり。
ガイはガクリと膝を折って、その血の海に倒れた。

「がはっ…!!」
「痛い?」
「る…く……っ」

ガイを見下ろす緑の双眼。
その表情は不気味な薄ら笑いを浮かべている。

「お前だけは俺を見捨てないって思ってたのに…。俺を見放すから…、俺の苦しみを分かってくれないから…!!」

ルークはガイの腹を貫通させた剣の柄を足で踏み付ける。
ズッと更に深く突き立てられ、刃で肉や内臓を斬られ、焼けるような激痛がガイを襲う。

「ぐ……あああああ…ッ!!」
「悩んで悩んで悩んで悩んで、手首切って死んで楽になりたいって思ってた。
けど、俺分かったんだ、ガイのおかげで。アクゼリュスの人達への罪滅ぼしの方法がさ。



皆殺しちゃえばいいんだよ。


そうしたら誰も悲しまないし、あの世で皆幸せに暮らせるだろ?」



間違ってる。

ガイはそう言いたかったが、もう声が出ない。
呼吸も上手く出来ず、瞳は掠れてもう物を捉える事は出来そうにない。

その先にあるのは『死』のみか。


「苦しいだろ?今すぐ楽にしてやるから。あの世で…アクゼリュスの人達に宜しく…な?」

非情な言葉が告げられた後、ルークはガイの腰にさしていた剣を抜いて、それを思い切り彼の心臓目掛けて振り下ろす。

剣が肉と臓器を突き刺す感触。
血が吹き出る光景。
真っ赤に染まるガイの骸。

もう、ルークを縛るモノは何もない。


「はは…、あは…はははは!!はははははははっ!!」

ルークは何かに憑りつかれたように、狂った笑い声をあげる。
笑いながらガイの死体に手を伸ばし、彼の美しかった金色の髪にそっと触れる。
今は血で赤く染まってしまった髪。
もうこの髪に、頬に、身体に触れる事はない。


自分で断ち切ってしまった。
自分で過去に決着をつけてしまった。

決めた事なのに、ルークの瞳からは一筋の涙が零れ落ちる。



「まだ暖かい…」


慈しむように骸を抱き締め、最後のお別れをする。
もうこの世界に未練はない。
愛する人ももういない。


ならこんな世界、ぶっ壊れてしまえ。




ルークはガイの体に刺さった剣を引き抜く。
人を殺した罪深い剣。
この剣とは仲良くやれそうだ。


「ガイ、待ってろよ。今、屋敷の奴等も…みーんなガイの所に行かせるから…」

ルークは剣を引きずりながら、一週間ぶりに自室から明るい外へと足を踏み出す。

太陽の光が眩しい。

ルークは目を細めながら、青く澄んだ空を見上げた。








―――――――――――――
この度は黒ルク祭に参加させていただき、ありがとうございます。
アクゼリュス崩落後、旅をする事もなく屋敷に戻っていたら。自分の非を認める事なく、追い詰められて被害妄想に支配されて人を殺めてしまったら…。
そんな妄想の果てに生み出された話です。
話ぐだぐだですみません。
ルークはガイを手に掛けた後、屋敷の人間、バチカル市民、果ては仲間だった者を殺して犯行を繰り返し、気付いた時には世界に残った人間はルーク一人だったらいいなとか思いました。
そんな私の妄想は置いといて、ここまで読んで下さってありがとうございました。



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