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一陽来復



「んー……ええと、私の目が悪いのかしら。ごめんなさいね。
でも、その、この診断書には女って書いてあるように思うのだけれど」
「はい、間違いありませんよ星月学長」
「その格好で言われても、ねぇ……」
「混乱させてしまってすみません。自分でもこの格好が普通でないとは思います。
でもどうしても嫌なんです、女の格好が。」
「それで制服を男性用に、って直談判?」
「はい、無理を強いているのは百も承知です」
「うーん、そうねぇ……何か事情があるみたいだから意を汲んであげたいのは山々だけれど……」
「ご迷惑は最低限しかお掛けしません。何か問題が起これば、即退学で構いませんから」
「そうは言っても……色々と危ないんじゃない?」
「――その辺は心配要りませんよ」




  § § §


夏休みを終えたばかりの今日、2年生のフロアはいつもよりざわついていた。
編入生が来る、それも外国から、男らしい――――。
どんな外人が来るのかと、朝はその噂で持ちきりだった。

そしてホームルームの時間が始まると同時、彼は星座科の扉をくぐる。


「空野 琴月です。」
『……は?』
「しばらくオーストラリアにいました。皆さんより年はひとつ上ですけど同級生としてよろしくお願いします」
『――日本人かよ!』

その日、琴月の第一感想は「随分と息の合ったクラスだな」だった。



  § § §


転入から数日、クラスの人達は私が日本人だと分かると、思いのほか気さくに話しかけてきた。
よほど言葉の通じない何かを想像していたのだろう。


「琴月昼飯一緒に食おうぜ!」
「お、おう……っ」

男の格好にはある程度慣れていたが、言葉遣いはどうしてもまだ慣れない。
落ち着いて喋らないとうっかりいつもの口調が出てしまう。
ただでさえ元男子校で女の子が他に一人しかいないのに、バレるなら屋上から飛んだ方がマシかもしれない。


「今日は何食べるんだ、哉多?」
「錫也に聞いてみねぇとな。……お、」
「何?」
「お前はサンドイッチか、いっこもーらいっ」
「あっそれは……」
「う、何だコレ、甘くないか?」
「――それフルーツサンドだから」
「げ……生クリームまで入ってら。宮地じゃあるまいし」
「い、いいだろ別に!?」

隣の席になった七海 哉多とフルーツサンドについて口論が始まったところへ、夜久 月子と東月 錫也が顔を出した。
何を隠そう、この月子ちゃんこそ学園で唯一(自分を数えずに)の女生徒だ。
その全ては、女の私から見ても可愛らしく可憐で、男達が放っておかないのではないかと心配した。
そんなものはこの幼なじみ2人を見て、杞憂となったが。


「何々、フルーツサンド? 美味しそうだね!」
「琴月は料理出来て偉いなぁ、どっかの誰かさん達とは違って」
「な……っ、うるせーよオカン! 普通の男子高生は料理なんてできないっつーの」
「わわ私だって別に出来ないわけじゃなくて、やらないだけなんだから……!」


この数日ほとんどこの3人とばかりお昼なんかを共にしていたら、彼らのことがいくつか分かった。

ひとつは、3人分のお昼を錫也が用意しているということ。
学食が多い中、珍しいなと思ったら。
転入初日には綺麗なおにぎりを見せられて思わず「美味しそう」なんて呟いてしまった。

ふたつめは、1人足らないということ。
どうやら春から夏に入る前までいた子が海外へ行ってしまったのだそうだ。


「あははっ。じゃあ月子ちゃんは俺と今度一緒に料理やろっか?」
「おい琴月、抜け駆けなんてすんなよ」

すかさず哉多がこちらをじろりと睨む。
おお怖い。

「いや、琴月はとりあえず自分の胃袋の強さを願った方がいいかもな」
「な……ちょっと錫也それどういうことーっ!?」

珍しく本気で月子ちゃんが憤慨している。
――哉多も否定しないあたり、どうやら彼女は料理が苦手らしい。



その後も、昼休みの時間いっぱい彼らの談笑は絶えなかった。



(9月×日)
(こんな私……俺にも)
(友達ができた)



to be continued..



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