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爪先で歩く




「マコちゃん、今度お洋服見せてね」
夕暮れの日が差し掛かる校舎。窓ガラスに反射してキラキラと机が光っていた。

声をかけてきた女の子は机に手をついて、私を見下ろす。


「ええと、」
私は、他の子より浮いていて、昔から虐めにあっていた。悪い噂ほど、浸透するのははやいもので、現在七月。
言わずと学年全体に広まっていた。
そろそろ、どこを見ても敵ばかりという状態に慣れて来た頃。

それなのに話し掛けてくるのは、たいてい途中からの転入生、薄っぺらい正義感をぶら下げて面白半分に会話をしかけてくる人。

見た感じでは見覚えがあるから恐らく後者。
ああ、名前、思い出したかもしれない。
このクラスの中で、少し目立っている女の子だったような気がする。
「ヨリ、さん?」
「ヨリって呼んで。」
「あ、うん……」
押しの強い声に気圧されて、私は思わず何度も頷く。ぷ、と笑いを堪えるようにヨリさんは口を押さえた。

「まあ呼び名なんてどうでも良いんだけど。ナカマちゃん、今度洋服見せてね」
笑いが治まったのか、ヨリさんは真顔に戻って、先程と同じ台詞を吐く。
そういえば、なんで知ってるんだろう。そんな疑問は口に出すことなく終わる。
「よし!友達になれたよね!?」
それは、彼女が、大きな声で宣言したからで。

「な、なんで?…私、皆にすぐに注意したりとかして、嫌われてるし…」
少し口を開けばこんな言葉しか出てこない。自分の口を塞いでしまいたかった。
でも、それは叶わない。
彼女の様子を見れば、彼女は真剣な表情で次の言葉を促した。

「…他人の間違いでも、すぐに正そうとして」
「うん、いいね」
私は返ってきた言葉に目を丸くして口を少し開いたまま、頭を横に倒す。
「自分に正直じゃない」
ヨリさんは頭を軽く叩くように撫でた。撫でられるなんて久々だ。

「あ…ありがと、う?」
手をどかして、私は軽くお礼を言う。正直、良く言えばそうなのかもしれない。悪く言ってしまえばキリが無いのだけれど。


「ところでマコちゃん、お針子で内職してるって本当?」
「えっと、うん、そう。ヨリさん、家庭科すごい成績いいよね…。興味あるの?」
「ヨリ。」
彼女はにこりと曲線を作っていた唇を尖らせた。
「あ…えっと、ヨリ。」
それを聞いて、またにんまりと笑う彼女。表情が豊かで、見てるこっちまで笑いたい気分にさせる。


「素晴らしい。」
彼女の冷たい手は、ぱちぱちぱち、と乾いた音を出していて、オレンジに染まる廊下に響いていた。




爪先で歩く。




 

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