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母性本能




ばりばりばり、と夜中には少し大きすぎる袋の音に俺の眠すぎて既にどこかに飛ばしていた意識は戻ってくる。
なんだなんだ、と伏せていた頭をあげて、目の前に座る彼女を見た。

さも俺が迷惑そうな顔をしていたのか、ヨリは目を合わせた途端に不服そうに目を伏せて、手元のチョコレートを口に放り込む。


「…チョコ食べちゃ駄目ー?」
「いや、そんなことはねーけど」
話している間にも目の前のチョコは吸い込まれるように彼女の口の中へ。(随分と器用に話してるな)


ちらりと時計を見れば、既に深夜1時をまわっていた。
俺なら絶対寝てる時間だ。が、彼女の様子を見る限りには寝る様子は無いようで、今はインスタントコーヒーを啜っている。
「こんな時間に食べると太るぞー」

思わず兄弟のノリで言ってしまった言葉を発して俺は少し後悔した。(兄弟、いないけど。)
女子にこの言葉はタブーかもしれない。
ヨリがどんな顔をしているか見たところで、先程のその心配は皆無だった。


「砂糖、入れてないから大丈夫じゃない?」
いや、そっちじゃなくて。

いつもと変わらずの飄々とした態度に俺は安堵する。やっぱりヨリは少し変わっている気がするけど。
これがアンコだったりしたら意味も分からん怒声とともに目の前のコースターでも飛んできそうだ。

「でも、限定チョコだからって今食べなくてもよー。」
「食べたい時に食べるの!」
ヨリはそう言って、さらに食べるペースをあげて、目の前にチョコの個包装の山を作る。まさに今の言葉は火に油だった訳だ。

「というか、なんでワクはこんな時間に起きてるの?」
「え、」
そういえばなんでなんだろう、と俺は口篭り、窓の外をふと見た。
星が大きく目に映る。つられたのかヨリも頭を少し傾けて夜空を覗き込んだ。

「ああ、放っとけないとか?」
「は?え、何が?」
いきなりの言葉に、思わず俺はだらし無く返して、話の続きを促す。彼女のこういう言葉足らずなところは止めて欲しい。
「なんかね、私みたいなのと一緒にいると母性本能をくすぐられる、ってカンジとかマキが言ってた」
「ふーん」
世話好きのマキがそう言うのは頷ける。カンジは分からないが。
「だからワクもそんなん?」
ヨリは目をキラキラさせてこちらを振り向く。いや、俺は世話好きではないほうだとは自分で思っていたし、だいたい、そういうのは男が持ってた物だったか。
ようは感覚の話なんだろうか。

何れにせよ、俺がヨリに大して持ってる感情はそれに近しく思えた、が。


「…違うんじゃね?」

なかなか答に近づかなくて、段々と面倒臭くなり俺はそれだけ答える。
「そっか」
ヨリも面倒になってきたのか、短くそう答えて、声を少し張り上げ主張した。


「家族が増えると嬉しいよね」

いまいち、彼女のことが分からない。




母性本能






 

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