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魔法のナイフ




ぽた、と目からぽろぽろ雫が溢れる。
目の前が歪む。

「なんで泣いてるんだよ。」
知らなかったから。
初めて聞いたから。
分からない、分からないの。これは、同情?
私は口を開こうと試みるが…いや、開いていた。

開いた口が動かない。



「うぁ、…な、」
だらし無く開いている口はただ、泣くことによって自然に出てしまう鳴咽を紡ぐのみで、言葉としての役割を果たさなかった。
「ん?」
目の前の男はその様子に、きゅう、と弧を描いた唇を、顔を近づける。

来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな、

チズが、どんな思いしたと思ってるの?
それだけ、聞きたかった。
「おい、ヨリ。大丈夫か?」
「だ、…」
だめだ だめだ だめだ だめだ だめだめだめだめだめだめ!
チズ、チズ、チズ、チズ、チズ、
「ヨリ、」

名前を呼ぶなと言ってやりたい。最悪、と言ってやりたい。

死ねばいい、って言ってやりたい。


「…あんた、なんか、消えればいい!、うぅ…、う、」
涙でボロボロの顔に触るな、涙をすくうな気色悪い、額に唇を近づけるな、髪に触るな。

全部気付いてたよ、でも確信が無かったよ、信じたくなかったよ。畑飼先生、畑飼先生、畑飼先生、
チズを悪者だと、思いたかったよ。先生、あの子は嘘つきなの。

なんでよ先生。


チズ、ごめんねチズ、何年間も一緒に過ごしてたよねなにもかもが懐かしいよ



私は畑飼先生を突き放し、コエムシを呼んだ。ほら、すぐに出てくる。
キリエくん、キリエくん、キリエくん、私ね貴方に少し用があるの




「…ヨリ?顔、どうしたの?」
なにがあったの?とキリエくんは私の顔を覗き込んだ。ああ、優しいね、キリエくん。でも今はそんなことでさえ思ってる状態じゃないのよ。

「あれ、貸し、て!キリエくん、あれ!」
枯れそうな声に構わず私は大きな声を出す。キリエくんは首を傾げながら私を唖然と見ていた。
「あれって…チズから、貰った?ヨリ、本当になにがあったの?」
「いいから!いい、から!」
急かす私に、キリエくんはポケットからきらりと光る魔法のナイフを渡してくれた。
ああ、素敵、素敵ね!

「コエ、ムシ!今すぐ畑飼先生がいる部屋、に戻して!」
「はいはい、分かったよ」
「ヨリ? 駄目だよ、

キリエくん、なにか言いかけてた。でも構わずコエムシは私を部屋にテレポートさせる。 一瞬のノイズ、眩み。
でも今の私にはたいしたことない。



「…ヨリ、どこ行って」

「先生、これ、知ってる?」



私は手の中にあるきらりと光る魔法のナイフを畑飼先生に見せて、





魔法のナイフ



 

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