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ストーカー作り
教室に譲二が居た。


面倒なので少し離れた席に座る。


譲二は、そんなあたしをいち早く見つけて移動してきた。


「ちょっとちょっとーつれないなぁ」


…めんどくせーやつ。


「おはよ」


「うん。あれ、遥は?」


「コーヒー買いに行ってる」


「いい子だなぁ」


「まぁね」


「…まだ怒ってんの?」


「は?」


「この前のこと」


「…ああ。別に」


「ほんと?」


「初めてな訳ないじゃん」


「そか…」


こいつはこの間、あたしの肛門を犯した。


「ただ、」


「なに?」


「もうすんなよ」


「…はい」


めっちゃ血出たんだからね。


始業のチャイムと同時に遥がやって来た。


「おはよー」


「お、譲二おはよ」


もちろん遥はあたしの隣に座る。


窓際の一番後ろの席。


左に遥、右に譲二。


机の上には温かいブラックコーヒー。


優雅だ。











つまんない。


コーヒーも冷めちゃったし。


最近平穏すぎて、ちょっと退屈。


朝から晩まで遥と譲二が傍に居る。


学校が終わると、あたし達は遥の部屋で各々時間を潰す。


あたしは専ら読書。


譲二は絵を描いてて


遥はパソコンの前か台所に居て、あたしをちらちら見てる。


同じ部屋で皆が違う事をするって素敵な事だと思う。

譲二と意外にも仲良くなってきたので、あたしの部屋の鍵の件が知れた。


遥が、隣のあたしの部屋の鍵を外から開けるのを見て譲二は大笑いした。


「ははは、なに、遥が戸締まりしてんだ」


「だってシロ鍵閉めないんだもん」


「はははは」


当然あたしの部屋に三人で居た事もある。


「不健康な部屋だなぁ」と譲二。


全ての窓に遮光カーテン、エアコンが常に作動してて冷蔵庫には酒とつまみしか無い。


健康な部屋だと言われたらどうしようかと思ったよ。




終業のチャイムで、あたしははっと顔を上げた。


「帰ろうか」と遥。


今日は朝からきちんと授業に出た。


「うん」あたしが言って、冷めたコーヒーを一気に飲んで立ち上がる。


「俺も」譲二も立ち上がる。


三人で遥の部屋へ。


また、各々が好きな事をし出した。


あたしは洋書を読み


譲二は画用紙に絵を描き


遥は珍しく雑誌を読んでいた。


1時間程の後、来客を知らせるチャイムが鳴る。


珍しい…


「新聞の勧誘かな。放っておこう」


遥の一言で、また本に目を移した。




またチャイム。


無視。


チャイム。


無視。


チャイム…


「うるせぇから出て」


我慢できなくて、あたしが言った。


「うん」遥が立ち上がりドアの覗き穴を見た。


すると彼は急いでドアを開け、同じようにドアを閉めた。


ドアが開いた瞬間にちらりと見えたのは、小柄な中年男。


「…客か」


あたしの呟きに、


「どうしたんだろ」


と譲二が言ってドアを見た。


「予期せぬ来客なんて初めてじゃない?」


「ストーカーかもね」とあたし。


「家なんか教えるからだよ」


「あんたもでしょ」


「いや、俺は大学の奴以外には教えてないよ」


意外だ。


「意外」


「そう?俺、面倒なのが一番嫌い」


「ふぅん」


「興味なさそ」


「うん、無いよ」


「はは」


「うるせぇ」


「ははは」


「黙れ」


「…」


「よし」


あたしも客には家を教えたりしない。


遥は馬鹿だと思った。


いや…待てよ


帰ってきたら聞いてみよう。


30分くらいしてから、遥が帰ってきた。


「ただいま」


「「おかえり」」


「参った、ストーカーだよ」


「馬鹿だなぁ、遥ちゃんは」と譲二。


「馬鹿じゃねぇよっ」


「わざとでしょ」


一瞬、室内が静まる。


あたしはちょっと声を太くして、もう一度言った。


「わざとでしょ。ストーカー作るの」


譲二は「は?」と言った。

「でしょ、寂しがり屋さん」


遥を見ると、顔を赤くしている。


「え、え?わざとなのか?」


譲二には理解し難いだろうな。


無理もない。


遥の、極度の寂しがりを知っているのはあたしだけだ。


うん、まぁあたしもまだまだ子供のようだ。


こんな事口に出すべきじゃない。


わかってるのに、遥の赤い顔を見たら反省する気も失せた。


「遥かーわい。


だけど、それについてかまってもらいたいからって参ったとか言うのやめて。


…あたしにかまってもらいたいからって」


遥は一層顔を赤らめた。


譲二は絵を描きはじめた。

画用紙と鉛筆が擦れる音がする。


「だって、シロが好きなんだもん」


遥がようやく口を開いた。

そうだね。


よく知ってるよ。


「うん」


「…」


そこで、譲二は何も言わずに部屋を出て行った。


よくある事だ。


彼にしては最大限に場の空気を読んだ行動だ。


彼は何を考えているのだろう。


みんなが円滑に活動できるように、


それを一番に考えて自分の行動を決めてる。そう見える。


譲二が家を出て二分後、
遥は盛大に抱きついてきた。


「ぼ、俺、気持ち悪くてごめん」


「別に気持ち悪くはないよ」


「ごめん」


「怒ってもないよ」


遥はあたしより背が高いので、抱き締められると一切顔が見えない。


表情は予想がつくけどさ。

今遥は、あたしに嫌われまいと必死になってる。


実際のところ、あたしは遥の事を何とも思ってないからそんな事じゃあ嫌いにもならない。


そこが惚れた者と惚れられた者の違いか。





だけどこうしていつまでも抱き締めて、人を息苦しくさせるのはどうかと思うよ。


「苦しい」


「あっ、ごめん」


謝ってばかりだ。


この人は謝るのが趣味なのか。


謝罪に対する一言も、面倒だからもうやめよう。


「俺はこんなに汚いけど」

「ん?」


「お前だけはそのままでいて」


お前だなんて呼ぶな。


どきどきする。


あたし極端にマゾなんで。

「だからずっとそばにいて」


この一言は余計。


「ずっと、はないだろ」


とたんに情けない顔になる遥。


く、そんな顔するなよ。


あたし極端にサドなんで。

譲二が帰宅した。


あたしは洋書を読み


遥はココアをいれていた。

元通り。


譲二もすぐに、風景に溶け込んだ。









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あきゅろす。
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