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こんにちは
「あの、メールの…」


「あ、こんにちは」


「行きましょうか」


彼の車でホテルへ。


道中、あたしからはあまり話し掛けない。


「緊張してんの?」


「は、はい」


彼はあたしの手を握って言った。


「大丈夫、優しく苛めてあげるから」








「おら、鳴け!聞こえねぇんだよ!」


「ああああん、ああっ、あんっ、もっと!」


「もっと、なんだよ?」


「もっと突いて下さい…あっ、あああ、イくっ、イくっ」


「俺もイくぞっ」


「イッて!いっぱい出して!あ、ああ、イくっ…」







行為が終わって、洗面所の鏡に立つ。


所々が赤く腫れていた。


「気持ち良かった?」


後ろからそっと抱き締められる。


ベッドの中で多少荒っぽい男は、日常生活においてはその逆である事が多い。


「すごく。ご主人様は?」

「とっても良かったよ。あと、これ」


彼はあたしの手に金を握らせた。


「ありがとう」


そして彼が身仕度を終えた。


「じゃ、またね」


「はいっ。気を付けてね」

極上の笑みで送り出す。


いつもそうだ。


終わった後は一瞬でも一緒にいたくないので、さっさと帰らせる。


ドアを閉め、静かに鍵をかける。


ソファに腰掛け、煙草を吸った。


今頃、「おとなしそうな顔してあの変態娘め」なんて思い出してにやついてるのだろう。


あたしからしたら、あたしを見下しながら金を払う男の方が変態だと思う。


それに哀れで、実に面白い。


イくっていうのは嘘だけど気持ち良かったっていうのはほんと。


見下される、叩かれる、泣かされるっていうのは堪らない。


自分が大嫌いになる。


死にたくなる。


殺して欲しくなる。


だけど、行為は終わってしまう。


そして金をもらうときに全てが醒める。


こんな男に殺されてたまるかと思う。


ひとしきり自己嫌悪と孤独感を堪能した後、ホテルを出てタクシーで帰宅した。

「ただいまぁ」


どさっとベッドに倒れこむ。


「おかえりぃ」


リビングに遥(はるか)が居た。


「なんか食う?」


「珈琲が飲みたい」


「はいはい」


彼はすぐに温かい珈琲を煎れてきた。


「ありがとー」


「じゃ、俺帰る。もう出かけないでしょ?」


「うん」


「じゃあね」


顔を枕に埋めたまま、ひらひらと手を振る。


外から鍵をかける音。


これであたしは次に遥が来るまで外に出られなくなった。


あたしは力を振り絞ってバッグから財布を取り出して、今日の報酬を手に取る。

それを机の引き出しに入れた。


あればあるだけいい。


無くなったらまた稼ぐ。


盗まれて困るものなんて無いので、あたしは部屋に鍵をかけない。


しかし遥には傷つけられたら困るものがあるらしい。


あたしだ。


あたしと遥は大学の同級生であり親友であり隣人である。


隣の部屋には彼と、誰かが居る。


しばらくしてから喘ぎ声が聞こえてきた。


男と男の喘ぎ声だ。


遥はゲイで、サドでもマゾでもない。


極端にそのどちらでもあるあたしとは違う。


遥の客はまだ見たことがないが、皆景気が良いようだ。


彼が中年男とセックスしているところを想像しながら眠ってしまった。


変な夢を見た。




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あきゅろす。
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