キリリクの部屋
35000HIT記念ダリア様リク前編(ウィリー×セツリ)by瑠璃子
リリカルなのは外伝・・・・のくせに番外編
二人の記念日
「ウィリーのバカー!!!!」
「うどぅはああああああああああああああ!!!」
抜ける様な青空の下、セツリの罵声とウィリーの悲鳴が響き渡った。
第35管理世界の惑星の一つ、メカルディス。美しい緑の大地とこの星特有の黄緑色の海に囲まれたこの星は、見た目そのままに緑の惑星である。新米執務官であるウィリー・J・アンダーソンとセツリ・ホワイトスターは此所の管理局駐屯基地に配置換えを喰らっていた。前回の任務でたった一人の時空犯罪者を捕まえるのに町一つを壊滅状態にしたためである。その為飛ばされたこの世界は1年に10件事件が起これば多い方というとても平和な世界だった。管理世界でも端っこにあるこの世界に飛ばされたということは事実上の解雇処分に等しいとセツリは考えている。相棒のウィリーの方はなにやら此所の研究と仲良くなったらしく日々デバイスいじりに勤しんでいる。セツリも楽しめ、こんな時間はこれからも何時手にはいるか分からないぜとウィリーから言われているのだが、基本真面目なセツリはこの平和な時間が憂鬱でしかたなかった。
その日もセツリは目が覚めた時から憂鬱だった。ウィリーは先に出て行ったらしく隣を見ても居なかった。一人で朝食を作り、テレビをつけた。流れるニュースは今日も平和なものばかり。セツリは盛大にため息をついた。
(私、何やってんだろ。こんな所に居るために執務官になった訳じゃないのに。世界の何処かでは今日も犯罪が起きて、誰かが泣いているのに。何で私は)
《我が主、そう落ち込まないでください》
机の上から相棒であるデバイス、ブラックサレナが励ましてくれた。セツリはそれを手に取り優しく撫でた。
(そうよね、憂鬱になっても仕方がない。今は我慢するしかない・・・)
その時ふとカレンダーに目がいく。今日の日付には何か印が付けてあった。
(あれ、今日ってもしかして・・・?)
セツリが基地の滑走路に行くとウィリーや研究部の面々が色々作業している真っ最中だった。
「装甲の問題はクリアされました。次は加速による対Gの件ですが」
「普通にフィールド展開じゃ駄目なのか?」
「それじゃあ張るだけで精一杯になりますよ。姿勢制御やらに回す分が無くなります」
「あとブースターの件ですがデバイス底部に設置するのがやはり最善かと」
彼らは滑走路に機材を広げ、なにやら熱心に議論している。セツリが近づいてきても全く気が付かなかった。
「随分熱心なことね」
「ん? おう、セツリ起きたのか。見てくれ、基本構造は完成したんだ。あとは実際に使ってみて問題点を改善して行くだけだ」
ウィリーが指す方を見てみると、彼の相棒である二本一対のデバイス、アルトロンズがなにやら改造されている真っ最中だった。長さは倍に伸び、最後尾にはどでかいブースターが取り付けられている。
「あなたも大変ね。相棒の道楽に付き合わされて」
《《相棒のコレにはもう慣れたさ》》
二本のデバイスが同時に声を上げる。このデバイスは、元は一本のデバイスドラグノフだったが、過去の任務でウィリーが負傷した時に破砕された。その際ウィリーのスタイルに合わせるべくウィリー自身が立ち会い改造、破砕したドラグノフのコアを二つに分け、この世でただ一つの二本一対のインテリジェントデバイス『アルトロンズ』となり復活したのだ。
そして今はウィリー達が行っている実験「生身の魔導士による高々度上昇の記録更新」のために魔改造されている最中だ。
「それで、セツリは一体何で来たんだ?」
「え? そ、それは、今日は、ほら、その、あれだし、今日ぐらいは、一緒に」
「へ? 今日って何かあったっけ?」
「・・・・え?」
「そんなことより、セツリも見ていくか? 今からブースターの発射実験やるんだよ。これが成功すれば一気にステップが進むんだ。これで生身で成層圏も夢じゃない」
その時、ウィリーは気づいていなかった。セツリが俯き、ウィリーの話など全く聞いてないことに。そしてどす黒いオーラをその身から発していることに。
「そんなこと? 貴方にとっては今日という日はそんなものなの?」
「ん? だから、今日がなっんだってんだよ。只の平凡な一日だろ?」
ウィリーがその言葉を発した瞬間、周りの時間が止まった気がした。そして・・・
「ウィリーのバカー!!!!」
「うどぅはああああああああああああああ!!!」
ウィリーは、速攻展開したブラックサレナの鎖鎌の分銅を諸に食らい滑走路の端まで吹っ飛ばされていった。
所変わって此処は都市部。
周りを行く人々の顔はどれを見ても笑顔。まるで此処は楽園の様。近々カーニバルでもあるのか町中は華やかに飾られ、そこかしこで準備の飾り付けやでかい荷物が目に付く。そんな中、セツリは一人不機嫌な空間を展開しながら緑地公園のベンチの一角に陣取っていた。
「はあ〜」
《我が主、お気を確かに》
はめている指輪から励ましの言葉が贈られるが、セツリの気分は一向に晴れる気配は無い。
ウィリーの鈍感っぷりは何も今に始まったことではない。付き合い始めてはや二年弱。未だに彼のことは分からないことだらけだ。戦闘をしている時はいい。自分がどう援護して欲しいか、何処に砲撃を加えれば私とコンビネーションを取るに当たり一番効果的か、彼は瞬時に判断し、そして確実に実行してくれる。戦場において、ウィリーほど背中を任せられる者はいない。だが、それは戦場限定だ。魔導師ではない普段の彼は本当に自分のことを愛してくれているのか時々不安にさせる。
(そもそも、私はなんであいつを好きになったのかな?)
は〜、とため息を吐く。考えれば考えるほど鬱の悪循環だった。とそんなセツリに近づいてゆく影が一つ。そしてその影は俯いているセツリの前で止まった。
「何をしているんですか? セツリ・ホワイトスターさん」
セツリが顔を上げると、そこには意外な人が立っていた。
「あ、グレイズ指令官」
目の前にいたのはグレイズ・D・マーシャル司令官だった。彼はセツリ達と同年代ながら既に司令官を任せられるいわばエリートだ。しかも父親が管理局本部の役員ともなれば超が付くほどのエリートである。
「司令官が何故こんな所に?」
「私でも少しは息抜きが必要なんですよ。それよりもセツリさんこそ一体どうなされたのですか?」
グレイズの問いにセツリは一瞬抜け出せそうになった思考のループにまた突入思想になった。そんなセツリを見かねてグレイズはこう提案した。
「何処か移動しませんか? こんな私でもあなたの愚痴ぐらい聞いて差し上げることぐらいは出来ますよ?」
「へえ、今日はそんな日だったんですか」
「ええ。ホントあいつも何考えてるのか」
此所はさっきの公園から程近い所にある喫茶店だ。グレイズの行きつけらしく、息抜きによく来るという。なるほど彼にあった程よく上品な、それで居て落ち着ける雰囲気の店だった。同じ行きつけの店でも安上がりだけの食堂や、チンピラしか居ないようなバーや居酒屋しか知らないどっかの戦闘馬鹿とは大違いだ。
「あ、すみません。司令官にこんなため口で」
「いえいえ、私としてはそうして楽にしていただけると嬉しい。なにせこの身分のせいで誰も私と気軽に話してくれないものですから。あなたとは同年代ですし、基地の外でくらい気を楽に。私のこともグレイズとお呼びください」
「はあ」
机にある紅茶を口に入れながら、セツリは大変だなと思っていた。しかし彼女もまた表にはでないものの家柄は決して劣っていない、お嬢様だった。
(そう言えば、本家に居るときは一人もいなかったっけ。友達)
いや、それは士官学校に入ってからも同じだったはず。ならなんで今の私には。
「でも、ウィリーさんも酷い人だ。そんな日を忘れるなんて」
「いや、彼にとっては本当に取るに足らない日だったのかも。そう思ってたのは私だけで」
「いえ! 愛している人との思い出を忘れるなんて最低です!! 私なら絶対忘れたりはしません!!!」
グレイズはいきなり机を叩き椅子から腰を上げた。だが、すぐに気がついて着席する。
「すみません。いきなり驚かせてしまって」
「いいえ。でも、グレイズの彼女はとっても幸せね。そんなに愛してもらえるなんて」
セツリは微笑みながらグレイズを見る。グレイズはそんなセツリの顔を見つめた。そして意を決したかのように口を開いた。
「私にお付き合いをしている方はいません」
「あ、ごめんさない。私はてっきり」
「ですが、好きな人はいます!」
そしてセツリの手を掴むと、セツリの瞳を見つめながら言い放った。
「セツリさん! 私と結婚を前提にお付き合いしていただけませんか!?」
「えっ」
その瞬間世界は二人だけになった。
一方その頃。
「ウィリー執務官! ブースターの点火実験順調です! このまま行けば直ぐにでも有人実験につかえます!!」
「おっしゃあ! ならとっとと始めようぜ! 善は急げだ!!」
「あの〜、執務官」
「ん? なんだ?」
「セツリ執務官の方はよろしいのですか?」
「かなり怒っていらっしゃいましたが・・・」
「大丈夫だって。その内帰ってくる頃には忘れているさ。それに」
「え? 何かおっしゃいましたか?」
「何でもない。おっしゃあ! 行くぞ、やろうども!」
「「「イエッサー!!」」」
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