躾という平手。


「最近、どうも寝不足でな…」

という訴えに、クラトスはまたもや目を閉じた。
何故ならば、これで本日数回目。しかも話の内容は全て、とある人物への愚痴だったからだ。

クラトスとユアンは同じ会社の同じ部門の同僚である。
同期入社であり、成績もそこそこ優秀(クラトスのが少し上ではあるが)で、ほぼ入社してからは席が隣同士であった。
その為か、ユアンはとにかく何かあればクラトスに話を持ちかけるようになり、また最初は仏頂面だったクラトスも段々と心を開いていき(折れたともいう)今ではクラトスの数少ない良き理解者となっていた。

彼の言う最近とある人物の愚痴というのは、それがまた厄介な相手だという。
ユアンは、同会社に部門は違うが婚約者がいるという。
近々、式や会場選びがあるということで、しきりに周りに自慢していたのだが、それと同時期に、その愚痴が増えてきたのだ。

ユアンの婚約者である、マーテルの弟、ミトス。
そのミトスが原因なのだという。

クラトスにはミトスに少しだけ、面識があった。
マーテルとは、生前アンナと知り合いだったらしく少しだけ話した事があって、また同じ会社ということもあり、
何度かマーテル自体には逢ったこともあるし、アンナへの命日には必ず花を届けてくれるからだった。
その際、クラトスはマーテルに連れられていたミトスと逢ったことがあるのだが、どう見ても、全く考えられないのである。

ミトスによる、まるで小姑のようなネチネチとしたイジメ(ユアン談)に。

クラトスのイメージからいうと、物大人しく礼儀正しい子といった印象なのであるがそれをユアンに言うと、
ユアンはとんでもない、と言って首を真横に激しく振った。


「あれのどこが!」

既に仮にも婚約者の弟に対して『あれ』呼ばわりしていることから、相当なものなのだろうなとクラトスは察した。



しかし、気持ちはわからなくでもない。
マーテルから聞いた話によれば、幼い頃マーテルとミトスの両親は死別、親戚に引き取られたものの、
家庭内のいざこざにより、マーテルはミトスを連れて2人で暮らし始めたらしい。
ミトスにとっては唯一の肉親である、マーテルが他の男性に取られるのが余程嫌なのだろう。

…ユアンもユアンでその事情を知っていながら、大人気ないとは思うが。


「クラトス、言ってやってくれないか。ミトスにもうちょっとだけ、俺に優しくてしてくれとか」
「……」
「頼む!」



しかし幾らクラトスとも言えど、その頼みには苦笑せざるおえなかった。






***

ロイドの通っている学校では、定期的に生徒会があり各委員長の代表が集まって定期報告をするという決まりがある。
今日はその日で、放課後生徒会室にてそれは開かれていたはず、だった。

ロイドは、よく体育委員長の代理として出席することが多い。

というのも委員長は殆ど3年生が務める。
だが、それは1学期だけのことで後は副委員長か、委員長の決めた代理がこうして定期報告に出席することの方が多い。
何故かと、言うまでもなく3年生は受験の時期になり、それどころではない、という暗黙の了解になっていたのだ。
それを見通してか3年は代表に選出しない委員会も増えてきていて、コレットの所属する文化委員長は現に彼女が委員長として務めていた。


かと言って、3年でもそのまま代表として出席する者もいる。
例えば、藤林しいな。3年にとって受験で忙しい時期であるにも関わらず、彼女がここに居れる理由は、彼女が茶菓子の老舗の一人娘だからである。既に彼女が後を継ぐことは決まっていたし、それに見合う実力もある。(ロイドらはよく、彼女の作ったお手製のお菓子を貰ったことがあって、それはもう美味だったという)
だから受験という概念は無いが、それでも親…というよりは彼女の養父はせめて大学には行って欲しいと思っているようだったが。

そしてゼロス。彼も実は委員長である。しかも名前だけで選んだような、美化である。
彼がどうして委員長になった経緯はしらないが、ただひとつだけ言える事は、彼が滅多にこの定期報告に顔を出さないということである。
まあ、美化委員というものははっきり言って、年末や学期末の大掃除時以外はあまり仕事は無い。
それを判ってか、ゼロスはその時期以外は顔を出さない。
出しても他の委員の報告・話し合いのみで自分が居ても意味がないのを知っているからである。だから美化委員の席はいつも空席である。代表ですらいない。恐らくゼロスが、自分が出席しているから代理はいらない、とでも言っているのだろう。


今日もそんな感じで定期報告が始まる。
最も、皆言う言葉は毎回同じで特に変わったことは無いだろうと予測していた。寧ろ、変わったことがある方が問題なのだ。
しかし、今日は滅多に口を開かない生徒会の顧問のリフィルが口を開いた。

「実は、市内の高校で会長と副会長が集まって会議を今度するんだけど…」

その言葉で一斉に生徒会長である“彼”…ミトス・ユグドラシルの方に目線が集まった。
今年の生徒会長は何と2年なのである。
というのも、今年立候補した生徒で3年の数が少なかったのが原因とも言えるが、
それよりも彼個人のカリスマというか、何と言うか…惹かれるものがあったのか、他の立候補者をかなりの差で引き離して当選したのである。勿論、2年だからと言って実力や指導力においては文句ひとつ無かったし(逆に、文句の言い所がない程完璧で)
誰も2年だからと言って、咎め立てすることはなかった。

「副会長が、その日は面接で出席できないの。だから代理を決めようと思ってるんだけど」

ああ、だからか。
そんな言葉が一気に皆の間で広がった。
しかし、誰もがその代理の話に難色を示した。
何せ、その日は唯一の休日である。部活ならともかく、誰が好き好んで休みの日にまで学校に行かなければならないのか。
ロイドも同様に、眉を顰めた。が、しかし。

「体育委員長。君にお願いしたいんだけど?」
「…え?」

ミトスのまさかの指名に、ロイドはただ暫く唖然としていたのだった。


***
だいぶ間が空きましたが(すいません)現代パロ続きですー!ここでもユアンとミトスのやっかみは酷いといい^q^そしてミトスはロイドが大好きだといい…!

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あきゅろす。
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