3文字

※TOS/親子

何だそれと、目を疑いたくなるような光景であった。
いや、彼に限ってそんなことは無いだろうと自負できるくらい。

だけど、やっぱり何度見ても、目を擦っても、頭を叩いても現実だった。


「何してるんだ、お前ら…」


***

事の発端は、何だったか。
多分、些細な親子喧嘩だったと思う。
久々にイセリア地方に来て、ついで(とは失礼だが)親父の家にクラトスの見舞いに行こうと言い出したのは俺。
というか、別に行かなくても良かったのだけれど、皆が気を使って行かせようとするからそうなってしまっただけのこと。
俺とクラトスが親子だったっていう事実。
そして、母親のエンジェルス計画。その運命は悉くクルシスの手によって歪められてしまった。
だからこそ、皆は気を使ってクラトスと親子の時間を持たせようと無理矢理時間を割く。
別にもっと親子二人きりで話したいこともないし、正直今更親子をしても多分、一緒に旅をしていた頃の方の印象が強くてきっと父親に見れないと思う。

…許せて年の離れた兄貴。

そう言うと、多分クラトスは悲しむだろうけど。

それで、無理矢理手荷物もといお土産片手に、親父の家に戻ると親父の家なのに親父は留守だった。
だが、2階にはやっぱりクラトスが居て、自分のベッドに横になっていた。

普通の病気なら、2、3日で回復に向かってこのベッドから出られたかもしれないが、クラトスの場合は違う。
体内のマナを開放したのだ。
それは、体内の血を抜く以上に危険なことで。

血は輸血できるが、マナは分け与えれたとしても自分でなかなか蓄積することは難しい。
しかもマナの減りつつあるこの世界なら尚更のこと。
肉体があっても、血があっても、マナがなくては生きていけない、その事の重大さを改めて知ったのはやはり、彼がオリジンの解放をした時だった。

リフィル先生がせめてでもと、クラトス自身で使えない上級の回復魔法を唱えると、少し気が楽になったのか、ありがとうと滅多に見せない微笑みを見せた。
これには流石のリフィルも驚いたようで、暫く唖然としていた。
全ての柵から解放されたクラトスは以前と比べて、確かに変わったと思う。
こうやって時々、見せたこと無いような笑みを本当一瞬だけ見せてくれたりする。
これが、ああ俺の本当の父親としての顔なんだな、と思うとやっぱり無性に甘えたくなってしまうからなるべくクラトスには逢わないでおこうと決めた。

それが彼には気に食わなかったらしい。
何故顔を見せないとか、ちゃんとしているかとか、色々聞いてくる。
大丈夫だと幾ら言っても、きかないから、うるせえ!と怒鳴ると、呆れたように無言で返された。
俺はクラトスのこの表情が嫌いだ。
一緒に旅をしていた時に、クラトスに嫌な印象をつけたのはこのスカしたような表情のせいだった。
この表情を見ると、やっぱりムカムカしてくる。
けれど、目の前の人は自分の父親で病み上がり、加え自分のために敵の目を欺いてまで世界中をまわってくれた男だ。
何かヘンなことを言って傷つける前に、俺はクラトスのいる自室から立ち去った。
階段下でゼロスとすれ違って声をかけられたような気がしたけれど、無視した。今なら間違いなくゼロスにあたるから。


外に出て、いつものように母さんの墓の前にいく。
大体親父に怒られた時もこうやって、母さんの墓の前で頭を冷やす。
どうしてもっとこう大人になれないのかな、冷静に出来ないのかな、といつも同じように反省する。
今回もまた同じように、カッとなってしまった。ああ、俺って情けない、と自嘲した。

暫くすると、何やら家の中から騒がしい声が聞こえてきた。
多分2階からだ。どうしたのだろうと、家の中に入ると料理を作っていたジーニアスとリーガルが、”ゼロスがうるさい”と訴えてきた。
仕方なく、階段を上って自分の部屋のベッドに真っ先に目を見やると。


…何故か、クラトスの上にゼロスが跨っていた。


***

「俺は別に気にしないぜ。…自由だって思う。それは」

リーガルが淹れてくれたお茶を飲みながら、家の外のベンチに座って言う。
隣には誰も居ない。居るのは目の前でクゥーンと鳴くノイシュだけ。

「クラトスが誰とどうなろうかなんて、そりゃ…俺には関係ないけど」

ゼロスがお母さんとかそんなのはイヤだな、と苦笑いした。カテゴリからいくとお母さんは間違いだが、ゼロスのことだから悪乗りでお母さんですよ〜なんて言ってきそうだったけれど。


「ロイド」

自分の名前を呼ばれ、顔を上げるとマントを取ったインナー姿のクラトスが、目の前に立っていた。
多分、予想しなくともさっきのことに違いないことだけは判った。

「別に気にしてないって。俺、心は広いから」

これじゃ、何だか浮気をされた女みたいだと自分の中で笑った。
きっと、その後には違うんだとか、ごめんとか否定的な言葉が返ってくる…と思ったら。

「…そうか」

え、マジかよ。
ロイドの心の中が一気に冷めついた。
本気で本気なのか?嘘だと言ってくれ、でもクラトスは嘘なんてそんなお茶目なことしない。

「な、なんだよ、俺…別にゼロスとクラトスがそんな関係でもさ、今まで通りだから」
「…お前は本当にそれでいいのか?」
「だって、それはクラトスが決めたことだろ?俺がとやかく言う権利なんて、これっぽっちも」
「いや、お前にはある」

ベンチの隣にクラトスが座り、そっと大きな手を頭が覆い被さった。
ああ、知ってる。この撫で方は父親のものだと、本能が知っていてつい気持ち良く目を細めてしまう。

「息子だから?」
「そうだ」

だから、父親の恋人くらいは決める権利があるとでも?
俺がイヤだって言ったら、そこで繋がりが終わりになるのかと思うとゾッとした。
それって、要するに俺の一言でももしかしたら未来をぶち壊すかもしれないって事でもあるし、その人の一生をダメにしてしまうかもしれないのだ。そんな重要な決断を簡単に下すことは出来ない。


「…だけど、俺はクラトスに幸せになって欲しいから。クラトスが選んだ人なら、文句言わない」

それだけは本心だと伝えると、クラトスは静かに小さく頷き、微笑んだ。
けれど、どうしても喜ぶ気にはなれない。
もし、自分が逢ったこともない、知らない女性であったならばまだ祝福できたかもしれないが、…よりによってゼロスとは。
そんなことを思っていると、家の扉からタイミング良くゼロスが出てきた。

「あのさぁ、天使サマよお」
「ゼロス…!」
「あれ?ロイドくん?」
「…俺、反対しないから」
「はぁ?」

ゼロスは全く以て意味が判らない、といった顔でこちらを見てくる。加えてクラトスが、付け加えた。

「だそうだ、神子」
「はぁ?何がどうなってんのよ、俺サマはただ…」
「ロイドはお前に母親になって欲しいようだ」
「はぁ!!!!???」

彼の口から出るとは思えない発言に、ゼロスは目を見開いて口をポカンとさせた。

「な、クラトス!おま…」
「お前がそう望んだのだろう?」
「…そ、そうだけど」

クラトスの決めたことには文句を言わない。
先ほど、そう自分で決めたからには、肯定で返すしかない。だが、自分よりもあまりにも先の展開が読めないゼロスが、だーーーーっ!と、大きく叫んだ。

「おいおいおいおいおい、ちょっと待ちな。何で俺サマがハニーの母親にならなきゃいけない訳よ。それって天使サマの奥さんって事だろ?冗談じゃねーって、いやマジで」

…あれ??
話が何か可笑しいような気がする。自分の中では、クラトスとゼロスはそういう関係で…なのにゼロスは、そうじゃない、と否定している。
でも、クラトスは…

「な、お前…クラトスと恋人じゃなかったのかよ!」
「気持ち悪いこと言うな!考えるだけでおぞましいぞ、それ!」

ゼロスはそう言いながら、自分の脳内でクラトスの恋人となった自分を想像したらしく鳥肌を立たせていた。

「クラトス…?」
「……私は、神子との関係について一言も口にした覚えは無いが」
「な、に…?」

…言われてみれば、そうかもしれない。と、言う事は。

「お前が勝手に勘違いをしているようだったから黙っていただけだ」
「っっ〜〜〜っ!!!!!!」

騙された!!!!
そもそも、クラトスとゼロスがそんな仲になる方が可笑しいのだ。
…犬猿の仲のような二人が夫婦なんて有り得ない。
でも一瞬でもゼロスが母親のような存在になってもいいかな、なんて思ったことに激しく後悔した。

「何よ、もしかしてハニーは俺サマに本当に母親になって欲しかった訳?」
「…ち、ちがっ!バカ野郎!斬るぞっ…っ!」
「でひゃひゃひゃ、ハニーもお子ちゃまなのね〜」
「魔神剣!」
「ちょ、おまっ!!あぶねぇって!もープレセアちゃ〜ん!!ロイドくんが苛める〜!」

そう言うと、ゼロスは家の近くの森にいたプレセアの方へ逃げていった。
あーもう。最悪だ。俺、凄く恥ずかしい。

剣を締まって、クラトスのいるベンチに戻ると不意に座っているクラトスがフ、と低く笑った。

「な、何だよ!…そんなにおかしいのかよ…」
「…いや、…お前は私に幸せになって欲しいと言ったな」
「あ、ああ…」
「そして、私の決めた者ならば文句は言わないとも言ったな」
「ああ…あ?」

そんな不敵な笑みを浮かべたクラトスの口から、
一言ずつ、はっきりと言葉が述べられる。

    

それは声には出さなかったものの、よく知ってる3文字で。


「文句は言わせぬ」





因みに、あの時ゼロスがクラトスの上に跨っていたのは、ゼロスがつまらない事でクラトスを怒らせたらしく、場所構わずにベッドの上でジャッジメントの詠唱を唱え始めたクラトスを止めるためだったらしい。

終わり。
***
からかう父親(笑)
途中からいみわからなくなってきたorzすいません;

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