※TOS/ED後/ロイコレ前提/親子? いい夫婦の日、と世間では言うらしいことをロイドはジーニアスから教えられて知った。 夫婦を祝う日だとも言うらしいが、ロイドにはあまりパッとこないようで、ただいつものように、村から少し離れた所で剣の修行をしているだけであった。 というのも、ロイドの仲間や知り合いに於いて『夫婦』と言う形の身近な存在がいないからである。 ジーニアスとリフィルの両親は知っての通り、父親のクロイツは既に故人である上に、母親のバージニアはエグザイアにいたはずなのだが姿を消してしまった。 コレットも母親がいない。親戚は教会側で住む場所を決められていたし、今はフランクと祖母であるファイドラと暮らしている。 リーガルの両親はともかくとしても、将来共に歩むはずだった人生の伴侶とも言えるアリシアを亡くしていた。 プレセアも小さい頃より父親と妹の3人暮らしだったが、父が亡くなりその後は知っての通り、エクスフィアの研究に巻き込まれてしまった。 しいなも捨て子であったのを今のミズホの頭領であるイガグリ老が拾った。 ゼロスに至っては言わずもがな、神子という彼らにとって忌まわしき血筋のために両親を早くに亡くしていた。 かくいうロイド自身も両親はいない。 父親であるクラトス、そして母親であるアンナはエンジェルス計画により命を落 とした。 よくよく思えば仲間の中で誰一人としてこの良い夫婦の日に自らの両親を直接祝うことができないのだから、逆にあまり当人らにとっては切ない日なのかもしれない。 だが、ロイドは何を思い立ったか剣をしまい、急にノイシュと共に村の方へと歩 きだした。 「…ロイド?」 たまたまイセリアに帰ってきていたコレットが、よく目立つ赤い服の彼が村の店に入っていくのを見て足を止めた。 声を掛けようと思ったが、彼の入っていった店があまりにも珍しくてつい躊躇ってしまったのだ。 それでも、コレットはロイドのことが気になってか声を掛けれなかったものの、黙ってロイドの入っていった店に足を踏み入れた。 「あと、これとこれ!あ、…やっぱこれかな」 中に入るとロイドが、あちこちと指さして店員にとある物を選ばせていた。 これが良いと言ったり、やっぱりこれだ、と意見を変えたりして店員はすっかり困った様子であった。 これが菓子ならばまだ子供だな、とも苦笑いできたかもしれないが、それが色とりどりの花だったから違う意味で苦笑いせずにはいられない。 コレットは顔が見えなくなるくらいまで広がった花束を持ったロイドに、漸く声を掛けた。 「ロイド、この花束どうしたの?」 「おわっ!コレットか、…驚かせるなよ〜」 どうやら声を掛けられるとは思わなかったらしく、ロイドは、はははと小さく笑いながら頭を掻いた。 「いや、今日がいい夫婦の日っていうからさ」 「クラトスさんとロイドのお母さま…アンナさんに?」 「ん、まあそうだけどさ」 確かに、ロイドからすればクラトスと母であるアンナが妥当な所ではあるがそれにしても量が多い。 ロイドは少し照れくさそうにして、歩きながら答えた。 「これは、ジーニアスとリフィル先生のお父さんとお母さんの分だろ?」 「わあ…!綺麗な白い花!」 「で、これがゼロスのお父さんとお母さんの分」 「あれ、これはオレンジ色だよね…?」 そこでコレットはとあることに気づいた。色とりどりとは言うが、ロイドのこと。適当に選んだのだろうと思っていたが実はそうでは無かったのだ。 「これはしいなの分、でこれがプレセアだろ」 「もしかしてみんなの分…?」 「ああ。最初は父さんと母さんの分だけでもって思ったんだけどさ。でも、こうしてみんなに逢えたのって、他の誰でもない、みんなの父さんや母さんのお陰なんだなって思って。だからさ、…あー…なんて言うのかわからねーや」 うまく言葉に出来ないようでロイドは舌を出して茶化してはみるが、コレットにはその意図がなんだかわかったような気がして、心が暖かくなるのを感じた。 みんなに出逢えたことは、みんなの父さんや母さんのお陰である、とロイドは言いたいらしいのだ。 それをいい夫婦の日に思いつくなんて、やっぱりロイドはロイドだな、と良い意味でコレットは苦笑いした。 「あ、それとこれはコレットの父さんと母さんの分な。フランクさんに渡してくれよ」 ロイドがコレットに手渡したのは黄色い花でコレットは心から綺麗だな、と思った。それを受け取って、コレットは笑ってありがとう、と返すとロイドは少し顔を赤らめた。 「じゃあ、お父さまに渡してくるね。ロイドは?」 「俺は母さんの墓にいってくる」 「じゃ、私も後から行くね」 「おう!」 そう言って、コレットと別れるとロイドは直ぐにダイクの家にある母アンナの墓に向かった。勿論、ダイクの分の花もあるから先にこっそりとダイクの家の中の花瓶に花を生けて、それから墓前に向かうとそこには自分より先に誰かが供えたのか水色の花が置いてあった。 自分もよく此処にくるが、自分で置いた記憶はない。それにまだ花は真新しい。 誰が置いたかは分からなかったが、たぶん彼だろうな、とおおよそ検討はたてて、その花の隣に自分が買ってきた花を供えた。 (父さん、母さん…この日って父さんや母さんのためにあるような日だと思うんだ、俺) 父さん、…クラトスを見れば母であるアンナとは良き夫婦だったのだろうなとロイドは思った。 自分の記憶の中の微かな母親との思い出を辿ってみても、いつも笑顔であった。 また、父であるクラトスも記憶の中では笑顔だった気がする。…最も、つい最近まで知っていた彼は滅多に笑った顔など見せてはくれなかったが。 暫くしてアンナの墓前にコレットがやってくると、ロイドの姿はそこには居なかった。 外に出ていたノイシュがコレットに気付いて、寄ってくる。ノイシュの素振りからしてロイドは家の中のようだ。 「コレット!」 「えへへ、ごめんね。花瓶割っちゃって遅れちゃった」 「お前なぁ…」 確かに此処にくるのに、多少時間が掛かりすぎだとは思ったが(だからこそお供えも終えて家の中に戻っていた)やっぱり、と言わざるおえないコレットのドジは今に始まったことではない。 「大丈夫なのか?」 「うん。だいじょぶだよ」 「コレットのドジはいつになっても治んないのな」 「そ、そんなことないよ!」 そう言いながら頬を膨らませ、拗ねたのかそっぽを向くコレットにロイドは笑いながら、後ろ手にもっていたものを彼女の目の前に差し出した。 「ほら!」 「…ロイド?」 それは、金色に輝かんばかりの美しい花で、コレットは突然のあまりに、わあ…と言ったままその後、口に出すことができなかった。 「これ…」 「コレットの分。ほ、ほら余ったからさ……新しい花瓶、買いに行かなきゃな」 「…うん!」 コレットはその花を受け取り、花束を両腕で抱き締めて、ロイドと共に歩きだした。 その2人の背中は、さながら夫婦のようで。 しかしこの2人が『いい夫婦』と呼ばれるのは、まだまだ当分先であったが。 おまけ ロイドが家の中に忘れ物をしたと、中に戻っていった後、コレットは静かにアンナの墓前にあるフランヴェルジュににっこりと笑いかけた。それは、この世のものとは思えない程の黒い笑みで。 「クラトスさん、……わたしたちいい夫婦になりますねvvv」 その瞬間、ロイドよりも先に供えてあった水色の花に稲光が落ちたのだった。 *** 先にお供えしたのは、ユアンです(笑) それにしてもいい夫婦なんてシンフォ世界にあるかどうかは別として・・・・ シンフォのメンバーの両親・もしくはこれから親になろうとした方々ってどちらかが、亡くなれてて凄い切ないなって思いました。 しかも皆、殆どが同じ運命で繋がれたかのような原因があって。 そう思うと、このメンバーって凄い運命の絆というか何と言うか、それを改めて知りました。 リハビリ第一弾。 [*前へ][次へ#] |