「ちょ、っ…」 暗い真夜中の部屋の中で、ひんやりとした手が背中に触れた。 一斉に沸き立つ産毛に、彼は済まぬと小さく答え、離れた。 いつでも、彼の手は冷たい。 でも、すごく暖かくて愛しいような気がする。 決して嫌いではない、彼の体温。 …だけれど、時にそれは現実に引き戻す力を持っていて、それが残酷なものだと知らされる。 「…触んなよ」 また済まぬ、と聞こえた。 いつだって、彼は済まぬしか言わない。 優しくされれば、される程、自分は酷い事しか言えないのだと自覚してしまったからには、もう拒むしかないのだ。 アンタ知ってる? アンタは俺のお父さんで、俺はアンタの息子なんだぜ? 「私は…お前に触れたい」 今にも壊れてしまいそうな、そんな声で訴えれば俺が振り向くとでも思ったのか? 「…触れるだけで、良い」 それだけで良い訳が無いだろ? 本心を必死に隠したって、俺には判るんだ。 でも…きっと、アンタも判ってるんだろ? 俺だって、アンタを拒みきれない弱さを持っていることを、それを知っていてそんな風に言うんだ。 だから俺はアンタが大嫌いだ。 クラトス、アンタが嫌い。 冷たい指先が唇に触れて、つーっとなぞっていく。 …普通の親子なら、唇なんかに触れやしねぇよ、なんて思いながら虚ろな意識は闇に消えた。 朝起きると、既に隣のベッドは空になっていて、朝食を取る食堂に皆は集まっていた。 遅いと散々どやされながら、悪い悪いと頭を掻き、席に着くといつもと変わりない彼が朝食をとっていた。 「おはよう、父さん」 「おはよう、ロイド」 俺は息子の顔で笑顔を作る。アンタも父親の顔を作る。 誰も気づかない、誰も知らない。俺たちはそう、仮面親子。 *** 二人っきりになると急に別人になる親子。 [次へ#] |