それから私にできるコト

※TOS-R/コレット→ロイド前提/悩むロイド少年

間もなくしてエミル…ラタトスクとの和解も済んだロイドは改めて一緒に旅をすることになった。

旅も終盤、その何日してからの夜。
大所帯になったパーティ一同は、流石に極寒の地フラノールで野営をすることも出来ず、宿を取った。
改めて仲間になったロイドに、ひっきりなしに皆が話しかけるのも無理は無い。
たった2年であっても、それは数年ぶりのような感覚で。元気かとか状況を何度も聞いてくる皆に対してロイドは嬉しくも少し苦笑いした。
漸く真実を言えたということ、そしてその負担が1人から皆へと分かたれたことによってその責務から、力が抜けたのかその日の夜は随分遅くまでメンバー同士で語り合い、宿屋は貸切のようだった。


その騒がしさも消え、誰もが寝静まった後。
ロイドは外の空気を吸いたくてマントも被らずフラノールの街を歩いた。
今は深夜であったことが幸いか、先日のようにまた殴られる心配もないだろう。


…フラノール。
それは、忘れられない場所。
初めてテセアラに着て、そして氷の神殿でセルシウスと契約して。
つい、あの場所へと足が自然が向かってしまう。
フラノール全景が見える、この街で唯一の特等席。…そして真実を知った場所。


「はあ…」

ため息をつくと、その息は白く凍った。
暖かさを知ることのないこの街は、身体だけでなく自分の心までも凍っていきそうだった。
しんしんと降り積もる雪が前髪に少しずつ積もっていく。

暫く手すりに寄りかかり、変わらぬフラノールの街を眺めていると、
ロイドは後ろから何かを被せられるように視界を隠された。

「ッわっ!?」
「えへへ。ロイド、風邪引いちゃうよ?」

すぐにそれはコレットだと知れた。
もう何年も一緒に生きてきた感覚か、それとも昔の自分にはない新たな感覚のせいか。
コレットが寒さ避けにとマントを着せてくれたのはいいが、肝心の彼女は防寒具を何も着ていなかった。ロイドはそれを見て思わず、顔が青褪めた。

「お前の方が風邪引いちまうぞ!?」

幾らなんでもこの寒さの中、防寒具無しでは風邪を引いてしまう。
ロイドは慌ててマントをコレットに着せると、首を横に振り小さく笑った。

「わたしは平気だよ〜!ロイド、寒そうだもん」
「コレットだって寒そうだよ!」
「だいじょぶ、寒く無いのはロイドも知ってるでしょ」

そこで、あ、と思い出した。
コレットはまだクルシスの輝石をつけている。
という事は、恐らく寒さを感じない故の言葉であって、昔の彼女からはとても考えられない発言だった。
しかし、寒くなくても…寒いと感じることはなくとも、“寒そうだ”という思いは消えない。


「いいよ。見てて寒いからさ、気持ちだけでも、な?」
「ロイド…」

自分の気持ちを理解してくれず、コレットは少し寂しそうにするとそのマントを半分、ロイドに着せた。
明らかに寒さ避けとしての機能にはならなかったが、気持ちだけでもと察したのだろう。


「半分コならいいでしょ?」
「…仕方ねぇな〜」

照れくさそうに、マントを半分…つまりは自然と寄り添う形になり、暫く無言になった。

喋ることがない、訳でもなく。
何を喋ればいいのか、な訳でもなく。

それを打ち破るように、コレットは首を傾げて言う。

「…ロイド、寝なくて平気?」

何だか急所を突かれたような質問にハッとする。

…恐らくコレットには見抜かれてる。
自分が寝ない理由、いや寝れない理由、寝なくても平気な理由を。


「え?ああ…もう寝るよ。お前こそ寝なくて平気か?」
「うん。久々に騒いじゃったから、目が醒めてるの」
「…そっか」
「ロイド…」
「コレット、ごめん。…」

心配そうにするコレットに何も答えてやれない自らの弱さにロイドは唇を噛み締めた。
いつだって彼女には何も伝えてやれない。
それをごめんとしか言うことが出来ず、苦しい思いだけが心に残った。


「苦しかったら、言ってね?私じゃ…頼りないかもしれないけど…」
「そんなこと、ない」
「何だか、あの日と逆だよね」

コレットは2年前の世界再生での旅の事を思い出していた。
自らが犠牲になることを秘密にし、そして天使疾患さえも秘密にしてロイドにばれてしまった時のこと。
確かにあの時は、それで良いと思っていた。
これが天使になるということ、即ち世界が再生されるのであれば、こんな苦しみなんて。
人は偉いと自分のことを褒め称えるがロイドは真逆だった。
それはとても、とても勇気のいることだと、コレットは今更ながら思った。

何せ自分は唯一世界を再生することの出来る神子で、その気になれば世界再生を放棄することだって出来た。
そう考えれば、皆が機嫌取りかのように褒め称える。神子さま、どうか世界をお救いなってください、と。そんな自分に怒ることは、反感を買うことでもある。元々イセリア出生でない、生まれが特殊なロイドのこと、尚一層。

そんな“ロイドの勇気”が、自分を救ってくれたのなら。
今度は自分が助けてやらねばならない、と。



「…ロイドはそれでいいの?」


そんなコレットの問いに、ロイドはすぐに返事を返せなかった。
その答えかのように、コレットの手を取り歩き出した。


「…いいんだ」

歩きながらだったから、聞こえなかったかもしれない。
…だが、聞こえても、聞こえなくてもどちらでも良いのだ。それは自分に言い聞かせる為の言葉だったから。


(それでいいのか?…多分、それでいいんだと思う)

ロイドは、そうもう一度心の中で呟いた。
そして、彼女に触れた手の部分が不意に、熱くなったような気が、した。




***
天使になってしまったことで葛藤する彼と、
自分と同じになってしまった彼を想う彼女。
そして僕にできるコト、それから私にできるコト。

サイト開く前に書いてお蔵入りした作品を手直し!
実は拍手ネタのユアロイ?の続きです。

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