父さんを連れて行った空

※TOS-R/ロイ←コレ前提親子

夢を、見た。


“…クラトス、クラトス…っ!”

必死に叫んで、暗闇の中を走り抜けるが一向に見えない目の前。

助けて、助けて、助けて。

同じ言葉を、まるで壊れた機械のように続けるが、何も反応はない。
彼が唯一の救いなのだと自覚しているからこそ余計に苦しい。
差し伸べてくれる人なんて沢山いるのに、それに縋らないのは、プライドとか意地とかそんなんじゃなくて。
否、出来ないのだ。…させてくれないのだ。助けてくれるはずの彼が。

そこで目は醒め、勢い良くベッドから身を起こした。
幸いにも、同室のエミルは気付いていないようで、ロイドはほっと安堵の息を小さく洩らした。
悪夢に魘される自分。
悪夢?悪夢なのか?そうなのだろうか。
あれは本心で、願望なのではないかと疑いたくなる。

本当に心から求めている人を願わずにいられるものか。
そんな女々しい自分が反論する。
もう一度、眠りにつこうとしたが、運悪く目がパッチリと醒めてしまったようで、夜風にあたろうとそっと部屋を出た。

流石に寒いな、とロイドは苦笑いした。
というのも、いつもの寝る時はいつものあの赤い上着を脱いで、
タンクトップにズボンという形だったから、寝ていたそのままの姿で出てきてしまったのだ。


真上に月が丸々と輝いている。
そして少し離れた所に小さく輝く星がひとつ。
それを見て、ロイドは目を背けた。

父親に肩車をされて、星を眺めたことから星を学び始めた自分。
そして空を眺めることをとても好んでいたはずのなのに、今では空が大嫌いになった。
早く朝になればいい、そう思った瞬間。
誰かの温もりを肩に感じた。思わず、誰だ!?と振り向きながらロイドが叫ぶと、目の前の“彼女”は驚いて後ろに尻餅をついてしまった。

「コレット!」
「えへへ…ごめんね、驚かせちゃった」

ロイドは思わず、剣の柄を握ろうとしていた手を下げるとコレットの頭を2、3度ポンポンと優しく叩いた。

「ダメだろ、寝てなきゃ」
「ちょっと喉が渇いて起きたら、ロイドが外に行くの見つけちゃったから」

当然、こんな夜中に外に出歩くのは危ない。
コレットでなくともリフィルや他のメンバーが見かけたら、ロイドを止めるだろう。
元はと言えばこんな夜中に武器は持っていたとしても、無防備で外出する自分が悪いのだとロイドは反省した。

「あ、でも久しぶりだね、こうやって夜更かしするの」
「そうかもな…」

コレットにとっては世界再生の時に眠れなくて一緒に夜明けまで語り尽くした時以来だ。
天使化して、眠ることを必要としなくなった彼女は今でも恐らく無理に眠ることは必要ないのかもしれない。

ロイドは少しそれが羨ましく思えた。
眠らなければ、あんな夢を見ることもない。あんな悪夢を。


「お前はいいな…」

天使で。

そんなこと、彼女を目の前にして言える訳もなかった。
天使化したことで失ったものは感覚だけでなく、大きな代償を得たし、それに好きでなったわけではない。コレットにとってはそんな忌まわしき天使化を羨ましいと言うのは、あまりにも残酷すぎる。
それでも、ロイドにとっては、今は羨ましいものでしかなくて。

「何がいいの?」
「…いや、なんでもない」
「な、くれないか…」
「え?」
「クルシスの輝石」
「いいよ、あげる」

コレットは胸元のクルシスの輝石を握って、そっとロイドに手渡すとにっこりと何の陰りも無く笑って見せた。それがどういう意味なのかを知っていてコレットは何も言わずに渡したのだ。
そんなコレットを見てロイドはズキリと心が痛んだ。

…淡い光が、掌で輝きを放ち続ける。

これがあれば、彼に逢えるかもしれない。100年後、200年後、1000年後…
だがそれは、今自分達が戦おうとしている目の前の敵とやっていることは同じなのだ。


「これでロイドが幸せになれるなら」
「ダメだ、やっぱり」

ロイドは掌のクルシスの輝石をコレットに返すと、彼女は何故?と首を傾げた。

「…忘れてくれ」

自分は”コレットに酷いこと”をしたのだ。
コレットにもし自覚があったとしても無かったとしても、この世で最低なことをしてしまった、と。
最初から判っていたのだ。
コレットに頼めば、きっと彼女は優しいからくれるだろうと…そんな優しさに漬け込んだ卑劣な願い。
でもきっと自分は、奪い取るなんて出来ない。
後悔だけを残して罪悪感に苛まれる自分は目に見えていたというのに。


一方のコレットは、掌に押し返されたクルシスの輝石を見つめながら、苦く笑みを浮かべた。

(…お父様と一緒になりたかったんだね)




…お父様のいる、あの星に。

あの空に還りたかったんだね。

でも、ロイドはこんなものなくても、だいじょぶだよ。

だって、ロイドにもあるじゃない。

あなたの背中に生える、その大きな翼が。


コレットは決して見えることのないロイドの背中を見つめながら、そっと彼の肩に寄り添った。




***
 実は知らぬ間に気付いていないけれど天使化してたという(笑)でもコレットのクルシスの輝石で天使化するロイドは見てみたいかも(笑) 


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