仲良し

ゼロスは困っていた。

今日は久々にロイドと会う約束をして、ついでにお義父さまにも逢ってくるつもりのゼロスはふと、彼…クラトスのことを何と呼ぶかで迷っていた。

クラトスはお義父さまと呼ばれるのを酷く嫌っていたから、なるべく言わないではいたが、今後のことを考えるとやっぱり義父になる(予定だ)からやっぱり今のうちに呼んで慣れさせておこうと思った。
が、その呼んだ回数だけゼロスの命の危機が訪れる始末で、ついにそれに見かねたロイドが「そのお義父さまって言うの辞めろよな、恥ずかしい」と釘刺されてしまった。

というのも、念願かなって遂にロイドと晴れて恋人(仮)になった(というか一方的にゼロスが押して、ロイドが折れた)のも束の間、大きな障害が聳え立っていたからだ。
それは彼の父親である、クラトス・アウリオンその人である。
気難しい人ならまだしも、この人は極度の親馬鹿さらにはストーカーという強力なステータスを持っている。
しかも4大天使の名は伊達ではなく技量もあれば、4千年生きて、培ってきた知識に悔しいがゼロスには恐らく何一つ勝てないだろうと思った。色んな意味で。(力ぐらいならば勝てるかもしれないがそれで経験の差は明らかに違うのは痛手だ)
ただ、勝てるものがあればそれは若さと遊び心、センスだろうか……そんなものがあっても、彼相手にはあまり効果はない。

しかも、ロイドの相手がゼロスという事が余計にクラトスは気に食わないのか、ゼロスに関しては情け無用の容赦なしでとことん冷酷であった。ロイドが居る前ならまだしも、居ない所では本当にえげつない。

それにロイドが途中で気づいて止めに入らなければ多分本気で死んでいたかもしれない事だって多々ある。
笑い事じゃないのだ。常時ライフボトルを持っていなければいけない、いや幾ら補充しても足りないくらいだ。

だからこそ、ロイドと正式なお付き合い(身の危険から守る為に)をするためにも阿呆くさいが、クラトスのことはちゃんと呼ぼうと思ったのはいいが。

これが意外にも思いつかないのである。

…従来通り、「天使サマ」にするかとも考えたが、嫌味たっぷりのその呼び方では多分何も変わらない。
寧ろ風当たりはますます悪化していくばかりだろう。
じゃあ、父上。いや違うな。親父?ハニーの義父じゃあるまいし。パパ?これは犯罪だな。
クラトスさま?様は俺サマだけでいいや。アウリオン?何か間抜けだしな。
ゼロスの頭の中に候補の名前たちが羅列していくが、どれも浮かんでは消え浮かんでは消え…


しばらくして、セバスチャンがドアをノックした。…どうやらロイドが着たらしい。
彼を迎え入れると、ゼロスはお構い無しにロイドに抱きついた。

「ハニ〜!」
「うわっ、なんだよ。びっくりしたじゃねぇかよ」
「いや〜、ハニーのお義父…あ、いや天使サマのこと何て呼べばいいと思う?」
「え?」

ゼロスらしからぬヘンな質問に、ロイドは目を丸くした。どうやら一言では理解できなかったらしい。
そんな様子のロイドを見て、ゼロスは言い方が悪かったな、と質問を変えた。

「ハニーはさ、俺サマと天使サマに仲良くなって欲しいと思う?」
「え?クラトス、とか?」
「そう、仮にもハニーのお父様なんだから、仲良くした方がいいかなって」
「……ゼロスとクラトスが?」

ロイドにとってはどっちも掛けがえのない人であり、仲間でもあり同時に大切な人でもある。
だからやっぱり、仲間同士仲良くなっては欲しいとは思うが…キッパリと彼は言ってみせる。

「想像できないな」
「え、そう?」
「でも、いきなり仲良くされたら、何か企んでるんじゃないかって思うだろフツー」

どういう見解だ、とゼロスは思ったが、まあそれもそうだろうなと思った。
自分とクラトスが話しているのを見れば誰だって怪しいと思うだろう。(100発100中ロイドの事に関することだな、とも予測できるが。)

「でも無理に仲良くしろなんて言わないぜ。誰だって嫌いなヤツはいるもんだし、認めたくないヤツだっている。でも互いにそこにいるって認めるだけで充分だと思うんだ」

真っ直ぐなロイドの視線に、ゼロスは「ああ、コイツはこう言うヤツ」だったなと思い出す。
それでもって、自分が惚れた所はこういう所なのだなとつくづく思った。
本当にバカがつくほどの真っ直ぐさ、それでいて裏表のない性格は自分を救ってくれてそれで………と、ゼロスが感慨深い思いに浸っている中、ロイドは笑ってゼロスの肩にぽんっ、と手を置いた。

「ていうかよ、今更仲良くなりたいなんて変な話だな。お前らとっくに仲いいじゃん」
「…………」

………ゼロスは嫌な予感がした。

(もしかして俺様がハニーに近づく度に、天使サマに殺されそうになるのを見て仲が良いとか思ってる…?)

「本当、妬けるぜ!ゼロス!」
「……」

嗚呼…と、ゼロスが心の中で嘆いた。
誰か、この真っ直ぐさを、どうにか捻じ曲げては頂けないでしょうかと。






ちなみに。
結局天使サマではなくて「クラトス」と普通に勇気を出して呼んでみた所、
『気持ち悪い』とただ一言返されたゼロスはもう何が何でも仲良くしないと心に決めたのだった。


***
ゼロスにクラトス、と言わせて見たかっただけ。
なんだかんだ言って魔剣士ズは仲良しです。(笑)


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