罪ほろぼし。

※TOS/クラアン前提のクラロイ

隣ですやすやと寝息を立てている自分の息子の額を撫でながら、クラトスは小さく幸せな溜息を吐いた。
未だかつてこんなにも幸せを感じる時間はあっただろうかと。
隣には息子がいて、そしてもう一つの隣には愛しい人がいる。

「…どうしたの?」

そんなこれ以上にない幸せな風景を眺めていると、起きたのか眠たそうにする愛しい人。

「アンナか」
「……寝れないの?」
「いや、そう言う訳では」
「……そう」

アンナは心配そうにクラトスの手を取ってそっと寄り添うと見上げてこう言った。

「寝れないときは、星を数えればいいわ」
「星?」
「そう、星」

窓から覗く星空を眺めてアンナはそれらに指を指した。
星なんて今まで気にしてみることもなかった。この惑星からすれば星の存在などちっぽけな存在だ。…逆もまたしかり。
それを数えろとアンナは言う。

「星など無数にあるが」

そんなのは無理だとクラトスが言おうとした時、アンナは手を伸ばし瞼に触れた。

「だから寝るの」

成る程、そう言う事かと瞼を閉じたままアンナの手を取って横に寝かせると同じくしてクラトスも体を横にした。

瞼を閉じれば必然的に思考が頭の中で溢れ湧き出てくる。それがクラトスにとっては何よりも苦痛でしかなかったのだ。

アンナのこと、ロイドのこと、明日はどう過ぎてゆくのか…そしてこの幸せがいつまで続くかという不安。
こんな不安を抱えながら日を越えるのは何よりも辛いし、不安で始まる1日を過ごすならばいっそのこと考えない方が良い。
だが、それでアンナに心配をさせてしまっては元も子もない。
一緒になってからはなるべく彼女には迷惑を掛けないようにしてきたが、 まさかこんな事で心配されているとは思わずに…。

暫くして、久々に取った浅い眠りから目を覚ますと朝焼けが窓から僅かに差し込んでいた。

…と、そこで漸く違和感に気付く。
アンナがいないのだ。
ロイドを起こさぬように起き上がり、ベッドを出て、少し出た所で彼女の後ろ姿を見つける。
窓をあけ、夜空を見上げているその姿はどこか神秘的で声を掛けるのに躊躇ってしまう。

アンナ、と名前を呼ぼうとした所で何か彼女が呟いているのに気付き、呼び留まった。

「…もう、……なのね」

(…何を言っているのだ)

天使聴覚ならば簡単に聞き取れるはずの距離も彼女自体の声が掠れていて聞こえなかった。

「…せめてあと、…、」

とアンナが身を折らせて咳き込んだ。その様子に心配になったクラトスは飛び出して今にも崩れ落ちそうな彼女を支えた。

「…アンナ!」
「……、……っ」
「無理はするな、今横に…」
「…あの子を、お願い…します…」
「何をバカな事を…」

その時、言葉の意味すら判らずにただただ無事を祈って彼女の体をベッドに横にさせたが、後々その意味知ることになるとは思わず。

アンナは予感していたのだ。
近いうちに来るべき未来がくることを。
そこには自分のいる未来がないことを。



そうして月日は流れ、クラトスの息子がロイドであるという事実が分かり、全てを打ち解けていよいよデリス・カーラーンにいるミトスの元へ向かうこととなったある日の夜だった。

とある宿にてロイドと同室になり、消灯してから数時間後。かちりとサイドテーブルの電気がつく音がしたのだ。
その聞こえすぎる音に目を覚ましたクラトスはそっとロイドの寝ていたベッドに目を向けた。

(やはり、ロイドか)

あの音はロイドだったのかと、確信し小さく明かりのつく方へとベッドから起き上がり足を向けた。
トイレかもしくは喉が乾いたか。
しかしそこにいたロイドは窓をあけじっと空を見上げていた。

「……」

何も言わずにただ夜空を眺めるロイドの姿に、何年前かにみたアンナの姿を重ねる。

「アンナ……」

聞こえない声でそっとクラトスは呟いた
決して言ってはならない言葉でもあり、息子に母親でもあり唯一愛した彼女の面影を見てしまうこと。


いけない、とクラトスは思った。
このまま見惚れてしまったら恐らく今後息子に母親の影を重ねてしまうかもしれないと思ったクラトスは、ロイドと名前を呼んだ。

さすがにその声には気付いたのだろう。
ロイドは小さく苦笑いしてごめんと謝った。多分謝っている理由は、夜中に勝手に起き出したことだろうとクラトスは思った。

「風邪をひくぞ」
「うん……」
「…どうしたのだ?」
「星を数えてた」
「星を?」
「そう」

にこっと笑って、ロイドはクラトスを見返すと再び窓の外を向いた。
流石に薄着のままでは風邪をひくと思ったクラトスは持ってきていたタオルケットをロイドの肩にかけてやると小さくありがとうという言葉と同時に「ねぇ」と返された。

「寝れないの」
「だから数えていたのか、星を」
「そう」
「神子に教わったのか?」

以前、クラトスが天使疾患にて眠れなくなった神子に言った言葉がある。
それは眠れぬ夜は星を数えると良いということだった。
元はアンナの受け売りではあったが、勿論、事情の知らないロイドには教えてはいなかったし、話す機会もなかった為、すっかり神子がロイドに話したのだと思っていた。
しかし次の瞬間、ロイドのその言葉に完全に言葉を失ってしまう。

「違うよ、忘れたの?」
「…忘れた?」
「…教えたじゃない」
「………!」

まさか、いやそんなはずは…。
信じられないと動揺するクラトスにロイドは首を傾げながら微笑んで言った。

「…忘れないで」

間違いない。
疑惑から確信に変わる瞬間、言葉よりも体の方が先に動いていた。

「…アンナ……!」

そのまま抱き締めると、確かに数十年前と変わらない抱き締めた時の感覚が蘇ってくるのだ。
今ここに確かにアンナはいる、そう思うと自然と抱き締める力が強くなってくる。

「…って、…ス…」
「…私はお前を忘れたことなど…」
「…いっ…て…ラ、…ス…」
「一度も無かった…」
「痛いって、…父さん!」

父さん。
その言葉にハッとして離れると目の前には困り果てた顔の“息子”がいた。
変なヤツだな、と見つめるロイドの顔は先程までの顔とは違ういつもの子供らしい顔で。
ああ、あれは…一体何だったのか…幻覚だったのかとクラトスは目を擦った。

「…何してんだよ」
「いや、お前が窓を開け星を…」
「は?窓なんか空いてないし、俺トイレに行くとこだったんだぜ?」
「何…?」

怪訝そうな顔でロイドがクラトスを見上げた。
冷たい風がカーテンを靡かせて空いていたはずの窓は締まっており鍵まで丁寧に締まっていたのだ。
では、自分は夢を見ていたのか?そうクラトスは考えたが、ロイドの肩には自分が掛けたタオルケットがある。…夢ではないのだ。
間違いなくあの時タオルを掛けたロイドは、目の前に、居た。

「クラトス、もう寝ようぜ」
「あ、ああ…」

考えている間にトイレを済ましたロイドが自分の手を引っ張り寝室へと連れてゆく。

再び横になったベッドの中で、クラトスは瞼を閉じてあの時確かにいた彼女のことを思い出していた。
……あれは何だったのだろう。
アンナはまだ生きているのではないか、とすら錯覚できそうな程で。
まだ今でもアンナを愛しているのは確かで恋しいのも確か。

しかし、今の自分には。
それ以上に愛する存在がいてそれが、如何に罪であることも。

(忘れないで、か)

今彼女にできること。
それがせめてでもの罪滅ぼしになるのなら。
それが一番の罰なのだから。


***
嫁が息子の体を乗っ取り話。結構趣味すぎですけど好きです^q^勝手に星を数える話は妻から話された設定にしてしまいました。すいません;

息子の体を乗っ取った嫁はそして夫を弄ぶといい。
結論からすると、妻があまりに息子に溺愛するあまり怒って夫に逢いに来た話でした(!

若干冬ソナっぽくなってしまったorz

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