そうなると判っていても

※TOS/ロイコレ前提クラロイ

「これ、いいと思うんですけど…どうですか?」
「…あ、ああ…」

訳あってフラノールに滞在していた私たちは何故か今神子…コレットと共に買い出しに出ている。
いつもならば、買い出し担当のロイドに任せるところなのだが…
それもこれもはフラノールに来て早々、ロイドは良い年であるにも関わらず雪遊びをして風邪を引いたせいだった。一緒にいたジーニアスは何ともなかったのに、何故かロイドだけが見事に発熱した。
それは言わずもがな、自己体調管理のなってない証拠で。

…全く嘆かわしい。

叱る間もなく、取り敢えず医者を呼んでくるようにと何故か名指しでリフィルに頼まれると、フラノールでかの有名な医者を手配した。
しかし、その後こうして神子と買い出しに行くようにとまたもやリフィルに名指しで頼まれたのだ。

「アップルグミと…あ、あと…」

色とりどりの商品が並ぶ陳列棚を見ながら、籠にどんどん入れていく神子。
金の心配は然程無いが、何か余計なものまで籠に入っていっている気がするのは…気のせいだろうか。
まあ、ロイドやジーニアスたちのえげつない余計な菓子の量に比べたら可愛いものだ。

「もう大丈夫ですか?」
「これで一通りの筈だが…行ってこよう」

雑貨屋での支払いを済ませると、冷たい雪の降りしきる外へと出た。
予定では買い出しを終えた後は、ロイドたちの休む宿に向かう筈だったのだが、ふと神子が帰り道とは逆の方向に足を向けていることに気付く。

「…神子、宿はそちらではないが」
「あ、えっ、ちょっと寄り道…してもいいですか?」

…正直言えば、寄り道というのはあまり好きではない。
これがロイドやジーニアスなものならば即に断っていただろうが、神子に頼まれると流石に断りづらい。何か意図があるに違いないとは察することが出来たが、やはりそれでも思い当たる節がなかった。

「何処へ行くつもりだ」
「あの…えっと…食材屋に」
「…いいだろう」
「ありがとうございます!

食材屋ならまだ可愛い寄り道だろう。
特に食材不足という訳でもなかったが、不足しがちな物を補充するにはいいかと思い、神子のあとをついてゆく。
…だが、いつも寄る食材屋とは違う道筋に入った神子を見て思わず声を掛けた。

「神子」
「はい?」
「こちらではないのか?」
「あ、そっちには売ってなくて」
「…差し支えがないのなら、何を買いに行くのか教えて欲しいのだが…」

そう言うと、躊躇ったのか、少し間を置いて神子は答えた。

「…ミルクを」
「ミルク?」
「その…ホットミルクを作ってあげたくて…ロイドが風邪を引いちゃって…私にも原因があると思うから…」

ロイドが風邪を引いた日、一緒に遊んでいたのはジーニアスと神子―…コレットだった。
勿論、コレットは天使化故に風邪などは無縁であるし、ジーニアスに至っては体調管理が出来ないほど中身は子供ではない。それをこの神子…コレットは自分のせいだと主張しているのだ。
神子らしいといえば神子らしいのだが、それは逆に悪い癖でもある。
それに加え、私がロイドの父親と知れたのはつい最近のこと。尚更なのだろう。

「…ならば、寝る前に持ってくるといい。体も暖まる筈だ」
「…はい!」



そう言うと神子は嬉しそうに、微笑んだ。
本当にこの娘はロイドを大切に思ってくれているのだな、そう思うと自然に笑みが零れた。
それは感謝すべきことなのかもしれない。
皆に愛され、そして想われる…それはロイドの人徳なのだろうが、そんな彼の人格を作ったのは育ての親であるダイク殿だけでなく、彼の周りの人物…神子たちのお陰だと。





―…ミルクを買い、宿に帰ると早速神子は台所へと向かった。
食後にホットミルクを手配する為だろう。

「…具合はどうだ?」

ロイドが寝ている部屋に入ると、大きく膨らんだベッドからひょっこりと頭が飛び出した。

「ん…クラトス、おかえり……。微妙…」
「無理はするな」
「わーってる…あ〜…だるい…」

喉の方も悪化したのか、少し枯れていた。
かなり気だるそうにしながら、再びベッドの中へと潜ると手だけがこちらを手招きしている。

(やれやれ…)

また少しだけ頭を出したロイドの頭を優しく撫でると、
まるで猫のように―…気持ちよさそうに目を細めた。

「冷たい…」
「長い間、外気に晒されていたからな…夕食はこちらに持ってこさせよう」
「ありがと」
(…神子にもそう伝えておかなければな)


気遣いさせぬように、そっと温くなった額のタオルを取り替えようと触れると
ロイドが小さく掠れた声で何かを嘆いた。

「クラト……ス………」

ぎゅっと服の端を掴んでいるロイドを見て、一瞬昔のロイドと姿が重なる。
昔、まだアンナと旅をしていた頃、同じようにロイドが熱を出した時があった。その時も同じように、名前…あの時は父と呼ばれ、服を掴まれたのだ。

「どうした?」
「そばにいて…」

言っている事も同じだなと思いつつ、頭を撫でると言い聞かせるように言った。

「食事を手配しなければいけない」
「う…分かった…」
「済まぬ。すぐ戻る」

子供ではないのだから駄々をこねるなと普通なら叱るかもしれないが、こんな状況ではそうともいかなかった。とことん甘いのは私の方か、そんな事を一人呟きながら。

…自ら自覚している訳ではないのだが、世間的にはこれを親馬鹿というのだろうな、と苦笑いした。



食事の手配を済ませ、食事を終えると神子がホットミルクを持ってきた。
その場に居ては迷惑だろうと気づかれぬうちに部屋の外に出た。
暫くして、コレットが部屋から出ていくのを確認すると静かにロイドが寝ている部屋に戻る。
ロイドは静かな寝息を立てており、電気も消灯していた。
恐らく、コレットと話している最中に寝てしまったのだろう、気を利かせて電気を消してくれたのだと思うと苦笑が零れた。世話の掛かる息子で済まぬ、と。

「…寝付きのいいことだ」

隣のベッドに腰掛け、マントの留め具を外すと、不意に手に何か触れた。

「…?」
「…コレッ、ト…」
「…フ」

コレットとの夢でも見ているのか、夢見良さそうに笑みを浮かべているロイドの頭を撫でた。

(これが親心と言うものか…)

まるで嫁に出す父親の心境…いや、ロイドは嫁ではないな、と思いつつ、
初めて感じるこの気持ちに戸惑いを感じながらも、ある意味自分自身に感心してしまう。
数年人形のように生きてきた自分にもまだこんなもっとも人間らしい感情があるとは。

しかしこれが親心なのか、それとも別の心なのか。
逆にこれが親心でなければいけないのだ。
別の感情である時、自分は…

「案外…寂しいものだな」

そうなると判っていても。
他の誰かと一緒になるのが摂理であったとしても。
それが自然な流れなのだと。

「……私はつくづく愚かだな」



…まだ、お前を手放したくない。



***
 やっぱり物語的にシンフォニアはロイコレで進むと思うのですが、でもやっぱり未練が・・・!
 みたいな感じのクラロイ。普通に行くと本当にコレット好感度高いですからね(笑)
 ロイコレルートのクラトス視点な感じでした。お粗末様でした・・・


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