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蒼紅
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「Trick or treat」

目の前にいるヒノエを見て将臣は固まってしまう。
何故、と顔に出ていたのか将臣を見てヒノエはくすりと笑った。

「今日はハロウィンなんだろ?」

10月31日、ハロウィン。日本ではそんな仮装して本格的にやるほどメジャーな行事というわけではない気がする―最近はテレビでも特集されるくらいに有名になってはきているが―。だから仮装までしなくてもいいというか、誰に聞いたんだ。そして何故その恰好なんだ。
と、将臣の頭の中でぐるぐると色々な考えが巡る。
ヒノエは珍しいもの好きだし、ハロウィンはお菓子を貰えるイベントだ。甘い物好きだから、だろうか。

「それなら納得、ってそうじゃなくてだな」
「それでお菓子は?」
「いや、あのな」
「ないんだね」
「だからヒノエ…ってそれ俺の携帯じゃねぇか!」

ヒノエの左手にはいつの間に取ったのか分からないが、確かに将臣の携帯が握られていた。
将臣は焦って携帯を取り返そうとするが、さらりとかわされる。

「待てって!」
「待たない」

携帯の液晶画面に映るのはデータ削除の文字。
それは駄目だと伸ばした将臣の手は虚しく空を切るばかり。ヒノエはその様子を見てくすくすと楽しそうに笑っている。
あと少し。伸ばした手が携帯に触れた瞬間、ヒノエの顔が目の前にきて。チリン、と首元の鈴が音を立てて揺れた。

「っ、ん」
「悪戯」

触れた唇が離れていく。
こんな行動からして確かにこの恰好は合っているのかもしれない、と思う。
耳に尻尾、首元には鈴の付いたリボン。そうヒノエの今の恰好は黒猫なのだ。
悪戯が成功して満足気な表情のヒノエとは対象的に将臣はすっきりしない顔している。なんだかこのままやられっぱなしというのは悔しい気がするからだ。

「…あ」
「将臣?」
「すぐ戻るって」

将臣は突然立ち上がりリビングを後にする。
確かどこかにあったはずと自分の記憶を辿りながら部屋に向かう。クローゼットの中を探れば、探し物は思ったよりすぐに見つかった。
文化祭で使ってそのままにしていた衣装。まさかこんな時に役立つとは思ってなかったのだが。

「…仮装には仮装で対抗ってか」

今度は反対に将臣がヒノエを驚かす番だ。



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あきゅろす。
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