蒼紅 祝福を送ろう 教会の鐘が鳴り響く中、バージンロードの先にある大きな扉がゆっくりと開かれる。 扉の向こう、現れたのは花嫁であるヒノエ――と弁慶だった。 「なっ…弁慶?!」 将臣は思わずそう叫んでしまう。どういうことだと周りを見ても話にならない。皆ただ弁慶を見つめているということは何でこうなったのか誰にも分からないという意味で。 ヒノエは不機嫌そうな顔で、それとは対象的に弁慶は笑顔で二人並んでバージンロードを歩いてくる。 しばらく固まっていた将臣だったが、ハッと我に返ったその時にはもう、二人は目の前まで来ていたのだった。 「お前どういうつもりなんだよ?!」 意味が分からない。 将臣はこの際周りなんて気にしないとばかりに弁慶を睨みつけた。だが、弁慶は軽く笑顔でかわしてしまい、ヒノエはそれを見て溜息をつく。 「あんたさ、誰にも言ってなかったわけ?」 「ええ。その方が皆さん驚くかと思いまして」 「……悪趣味」 ヒノエと弁慶の間で交わされる会話についていけない。 段々と不機嫌な顔になっていく将臣に、弁慶が一言。 「親代わりですよ」 「……………………は?」 思わず間の抜けた声を出してしまう。 親代わりとはどういうことなのか。 「ヒノエの父の代わりです。湛快は僕の兄ですから」 そこまで言われてやっと意味を理解する。 ここに来れない湛快の代わりに弁慶が父親役をしたというわけだ。 意味は分かった。分かったのだが、それならそうと先に言っておいてくれ。と、将臣は肩を落とす。 「一瞬取られたかと本気で焦った……」 いくらなんでもそれはないと分かってはいるのだが、本気で焦ってしまった。 将臣の言葉にヒノエは嫌そうな顔をする。 「そんなのオレは願い下げだね」 絶対有り得ないというか、絶対嫌だ。と言うヒノエに弁慶は酷いですね、と返しながらも顔は笑っている。 「僕はヒノエのことは好きですが、家族としてですよ?」 「分かってる。それでも心臓に悪いんだよ!」 「それは大事なヒノエを黙って渡すわけありませんからね。仕返しというか…嫌がらせです」 「それ、自分で言うか……」 「僕と兄の分、二人分のわりには軽い方ですよ」 にっこり笑顔で言われて、これが姑による嫁苛めというヤツかと思った。俺は嫁じゃないから旦那苛めかと冷静にツッコミを入れたりして。 将臣は溜息をついたのだった。 「……ごめんね。オレ、皆知ってるものだと思って」 将臣を心配したのか、ヒノエはそう申し訳なさそうに謝る。それに対して、お前は悪くないと将臣は優しく微笑んだ。 弁慶はそんな二人をじっと見つめていた。 この二人ならばきっと大丈夫だろう。ずっと共に生きていける。 将臣になら安心してヒノエを預けられる。 「将臣くん…ヒノエを、よろしくお願いします」 弁慶の真剣な言葉に驚く二人だったが、すぐに笑顔に変わる。 周りにも自然と笑顔が広がっていたのだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |