理解
阿部が、彼女と並んで歩いて行く。
…なんでだろう。
今日はいつもより、自棄にイライラするんだ。
「…おい、田島、」
「田島くん、帰ろ?」
花井としのーかの声が、同時に上がる。
「あ、花井くんごめんね!先いいよ?」
「あー…イヤ、いいよ。大した用じゃねーから。オマエら帰ンだろ?また明日な」
花井は苦笑しながらそう言うと、ヒラヒラと手を振って泉たちの方へ歩いて行った。
「…じゃあ行こっか!」
しのーかに差し出された手を繋いで、チャリ置き場まで歩いて。
チャリを押しながら他愛ない会話を交わし、しのーかの家の前に着いた。
その間も思い浮かべていたのは、阿部と、彼女のコト。
…こんなん、いい加減おかしい。
もしかしてオレ、ビョーキかなんかなのか?
「ね、田島くん。…キス、してもいい?」
「…?当たり前じゃん!」
恐る恐る訊ねるしのーかが珍しくて、首を傾げる。
「つーか、しのーかからって珍しくね?」
そう言うが早いか、重ねられる柔らかい口唇。
「…ねぇ。田島くん、最近ずーっと阿部くんの方ばっかり見てるよね」
口唇が離れた瞬間、突然紡がれた言葉。
何故かその一言が、オレの心に重く響いた。
「最初はね、希さんを見てるのかなって思ってた。
…でも、違ったんだね。
…田島くんが好きなのは…阿部くん、でしょ?」
「……………は?」
…オレが?
…阿部を…
──好き?──
単語だけが羅列されていって、頭ん中は真っ白になった。
しのーかに言われた言葉が脳内でグルグル回って、頭痛くなりそー。
…でも、何故か妙に納得するとこもあって。
………ああ、そっか。
オレ……阿部のコト、好きだったのか──。
「あははっ、気付いてなかったってカオだね!」
「……ワリィ、オレ…っ」
「あ、謝んなくていーよ!しょーがないもん!
…でも…。最後に、ワガママ聞いてもらってもいいかなぁ?」
「うん。何…っ!?」
オレが言い終える前に仕掛けられた、突然のしのーかからのキス。
さっきの優しいものとは違って、まるで噛み付かれる様な強いキスだった。
「これで、最後だから。
…バイバイ、田島くん」
そう言ってしのーかは、涙を隠す様に慌ただしく家に入っていった…。
…オレはそれを見送った後、チャリを押しながら家路を歩く。
そして、鉄臭い味がする唇を舐めながら、阿部の顔を思い出していた。
「…オレ…阿部が、好きだ」
自分の気持ちを確かめる様に呟いた言葉は、風と共に流れていった──。
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