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その執事、異変


ぴあののれっすん、というものは以外と楽しかったりした。まだまだ指とかはよく分からないけど、ユウがずっと側で見ていてくれたから。
その後も次の習い事が待っていた。それでもユウがいてくれたから、頑張ろうって思えたんだよ。

櫻田家の夕食は必ず家族みんなが揃わないと食べてはいけないことになっているが、今家族は二人だけ。
お母様は病弱なため病院生活を余儀なくされている。






「それじゃあ、いただきます」


『いただきまーす』






もちろん和食だ。食べ切れないほどの豪華な料理が机の上に並べられている。女中たちが気持ちを込めてつくってくれた料理。
女中やユウはあたしたちが食事中、お布団を敷いたりお風呂を沸かしたり大忙し。

二人だけの食事は悲しいけど、お母様が元気になったらいつか絶対三人で食事したい。それがあたしの夢のひとつかもしれない。





『ねぇ、お父様。ユウのこと…どこで知ったの?』


「神田・・・くん?千里は神田くんに直接聞いた方がいい。私が言うことではない」


『分かりました。でも、いつか知りたいです』







そうだね、とお父様は呟いた。お父様もユウも何かを隠してるけど、それを知るにはまだ早いってことでしょう?
食事が終わったらお風呂に入って寝る。それがユウが来るまえまでしてたことだけど、今は違う。お風呂から上がったらユウから個人れっすん。

英語がいまいち苦手なあたしのためにユウが毎晩教えてくれる。それは、英語の先生が来て教えてくれるよりも分かりやすい。






『あーゆーふろむじゃぱん、あなたは日本出身ですか・・・か』


「その通りです、お嬢様。よくできました」






びっくりして扉の方を見ると、ユウの影が見えた。高い位置で髪の毛を結っているためすぐにユウだと分かった。







『なんでここにいるのよ、早く出て行きなさいよ』


「タオルを持ってきたんですよ、それに覗くなんて思ってたんですか?」


『お、思ってない・・・けど。今晩も英語教えてくれるのよね?』






もちろんです、とユウは言ってから風呂場を出て行った。心臓が高鳴り、お湯が温かいせいか何なのか分からないけど顔が暑かった。
持ってきてくれた「たおる」に顔を埋めて考えた。同い年の男の子と同じ屋根の下で、意識しないはずがない。

まだ好きとかそういう感情はないかもしれないけど、これから先・・・ユウのことを本格的に好きになっちゃうかもしれない。
ユウにとってあたしはただの主人かもしれない、でもあたしを一人の女の子として見てほしいっていう気持ちは今でも持っている。


あたしの未熟さ故に、ユウを苦しめるのだけはしたくないけど。






『あの、たおる持ってきてくれてありがと』


「どういたしまして、覗き扱いされたのは・・・私が信用されてないからでしょうか」


『そんなことない!そんなこと・・・ない。ユウのことはとても信用してるわ』






執事として、と付け加えた。お父様は自分で答えを見つけ出せと仰った。あたしはユウのことを知る権利はあるの?
あたしだって聞かれたら嫌なことは数え切れないほどある、ユウも同じ人間なんだからそんなことはあって当然のことなのに。

ユウの本性が見えてこない。急に強い言葉で話して、あたしを挑発するようなことを言う。そうなったかと思えば元に戻ってしまうんだ。



つかめない。空に浮かぶ真っ白い雲みたいに、ユウのことが掴めない。






「さてお嬢様、英語のお勉強をしましょうか」


『あのさ、あたし・・・敬語じゃないユウが好き』


「お嬢様・・・?」


『偽ってるユウは嫌いよ、あたしは知ってる。本当のユウはどこ・・・?』






ユウの頬に手を当てて、呟いてみた。あたし・・・何言ってるのか分かんないよ。

でも微かに見えたんだ、ユウの口元が急に緩むのを。そして優しく抱きしめられたと思ったら耳元で囁いた。






「しょうがねェ、じゃあ千里の前でだけ・・・本当の俺でいてやる」


『ユウ・・・?』







090725


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