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その執事、登場


櫻田家は代々、剣術の家元として名を轟かせていた。櫻田家の初代頭首は日本一の剣豪として名を残している。
その家の一人娘、千里は現在の頭首である。18歳という若さでありながら、剣の腕前は世界レベル。

その少女と、一人の少年・・・執事の物語である。






「千里さま、千里さま!」


『何?あたしならここだけど、お父様関係?』






朝、大きな家のそれは長い長い廊下を女中であろう女性が大きな声を出しながら走っている。千里さまと呼ばれた女性はまだ若々しく、凛々しい顔だちをしている。
だらしなく着た着物は昔ながらの柄。長い袖を半分に折り、眠たそうに頭を掻いている。胸元は大きく肌蹴ており、下着が見えている。

庭の木の上では小鳥が楽しそうに口笛を吹いて、風はその歌に合わせて踊る。雲は上から羨ましそうに眺めている。何一つ変わらない朝。






「その通りでございます。お父様がお話したいと申しております」


『分かった。ありがとね、行ってくる』






女中が走ってきた廊下を元気に走っていく現頭首、櫻田千里。
だいたい話の見当はついている。きっとお見合いや結婚の話に違いない。最近のお父様はそればっかりだから。結婚だの、お見合いだのって。

あたしは自分で選んで、自分で恋愛して、自分で決めたい。
だからお父様に言われるのはあまり良い気分じゃない。お父様のことは好きだから、嫌いになりたくないの。






『失礼します、お父様お話って?まさか、結婚とかじゃ・・・ない、ですよね?』






お父様の部屋に入った途端、あたしの心臓がいつもより早く鳴り出した。うるさい、うるさい、うるさい。
耳を塞ぎたくなるようにうるさく鳴り続ける。顔が赤くなるのもそんなに時間はかからなかった。

だって、お父様の隣には長髪のとても綺麗な男の人がいたんだから。






「千里か、座りなさい。この人は今度からお前の身の回りの事をしてくれる・・・」


『ちょっと待ってください!あたし、そんなの頼んでないし』


「いいから聞きなさい。えっと、ひつじの・・・」


「執事です。執事の神田ユウです。今日からよろしくお願いしますね、お嬢様」







お嬢様?そう言って、神田ユウさんはあたしの手を握り手の甲に軽くキスを落とした。お父様はもちろん驚いていて、女中も驚いていた。
何しろ、神田ユウさんはすーつというものを着用しているんだから。ここでは基本、着物だから。

すーつなんて珍しくてあまり見たことないもの。町へ出れば何回か見たことあるけど。お父様が許してくれないから。






『キ、キス・・・じゃなかった。接吻なんて、あの恥ずかしいんで』


「これが挨拶でございます、お嬢様」






ここでは外来語なんてあまり使わない。昔からそう教えられてきたから。漫画なんかでキス、は知ってるけど。
すーつなんて上手く発音出来ないし。神田ユウさんの長い髪の毛が綺麗で見とれていた時。お父様の声が聞こえた。






「では、後は若い二人にお任せするか。神田くん、千里を頼むよ」


「かしこまりました。ではお嬢様、お部屋へ参りましょうか」


『え、ちょ!』






あたしの体をひょいっと簡単に持ち上げてしまった神田ユウさん。お姫様だっこというものだ。漫画で見たことあるから。
恥ずかしくて顔が真っ赤。暴れてみるが、男の人の力に敵うはずもなくあたしの抵抗は無駄に終わった。






『あの、神田ユウさんはなんですーつなんて着てるんですか?』


「お嬢様、ユウとお呼びください。それに敬語もいりません。スーツですか?仕事なので」






神田・・・じゃなくて、ユウはあたしをベットの上へ下ろしてくれた。そして、ユウは地べたへ跪くような格好になる。
すごく違和感がある。こんな和風な家へすーつの男の人。全く合ってない。ここは着物の家だから。

外の世界ではすーつとか普通にあるのかもしれないけど、外の世界を知らないあたしには少し難しいや。






『ご主人様として命令します。二人の時は千里って呼んで。それと敬語なし!』


「しかし、」


『何か文句でもあるかな、ユーくん』






だんだん調子が出てきた。こんな感じなら楽しくやっていけそうだ。
和風女に西洋男。育ったところは全く違うかもしれないけど、文化の交流ってやつだと思ってさ。気楽に楽しくやっていこう。

これからよろしくね、ユウ。






090511.



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あきゅろす。
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