02
チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえてくる。
朝日が眩しい、午前6時半――・・
あと30分で別の人が来る。丸1日ここにいることになるな、と考えながらも商品を並べるために立つ。
「おはよう、美咲ちゃん」
『おはようございます、長谷川さん』
眠たい目を擦りながら、長谷川さんがあたしを心配して早めに降りてきてくれた。
そして入荷したての菓子パンを、他の人には内緒だよと言ってくれた。
しかもあと15分勤務時間があるのに、もう帰っていいよと言ってくれた。正直、体力的に限界だったためお言葉に甘えて帰ることにした。
『眠い・・・、』
眠気のせいですっかり総悟に電話をするのを忘れていた美咲。
フラフラとコンビニを出てから、目を擦りながら家路を急ぐ。
そのころ、銀時宅では。
「銀兄、晋兄・・・朝ごはん出来やした」
「おう、うまそー」
男三人が手を合わせて、いただきますと声を合わせて言う。
どれほど仲の良い兄弟なののか、と思うがこの三人。それほど仲が良いというわけではないのだ。
総悟の視線の向こうには、一昔前の電話。お金がなくて新しい電話に変えられてないのだ、銀時は。
「・・・美咲、まだですかねィ」
「クク、なんなら俺がバイクで迎えにいくぜ」
「いいでさァ、俺が行くんでィ」
鼻で笑ってみせる晋助を睨むとまた、総悟は電話を気にする。
目の前には白と黒のしましま。
赤いランプが光ってるけど、赤って渡っていいんだっけ?青がだめなんだっけ、赤がだめ?
もう、いいや。早く帰らなきゃ、総悟に会いたい――・・
『あっ・・・』
気づいた時には、もう遅かった。全てが手遅れ。
クラクションが鳴った瞬間、体に強い衝撃が走り宙を舞う自分の体。
赤い信号は、渡っちゃだめなのよ。お母さんの言葉が頭の中に響く、そして視界の中には赤い信号――・・
『そ・・・、ご』
左肩から地面に叩きつけられた体。
頭の方が生暖かい気がする、恐る恐る触ってみるとねっとりと赤い液体が手に付着する。
赤い信号と、赤い自分の手――・・
『(このまま、死んじゃうのかな?)』
体が全く動かない。
至る所が痛くてたまらない、それに怖い。春で温かいはずなのに、体全体が冷え切ってる。
助けて、助けて。誰か、助けて。
「"プルルルル、プルルルル"」
「美咲、遅ェじゃねェですかィ」
「・・・大江戸病院の者ですが」
「・・・・・・」
頭の中が真っ白になる。
何が起こったのか理解するのに、当分時間がかかった。
なんで病院?もしかして、美咲に何かあったんじゃ。
「落ち着いて聞いてください、」
「近藤美咲さんが、事故に遭われました」
「・・・今、から行きまさァ」
手が震えるのが分かる。
電話を切るのさえ忘れるほどに同様している。今の会話からだと銀時や晋助には伝わらない。
総悟は足の力が抜けるのを感じながら、床に座り込む。
「総悟ー、美咲何だってー?」
奥の部屋で何かしている銀時と、テレビに夢中の晋助。
返事がないことに驚きを感じ銀時が総悟の様子を見にヘラヘラしながらリビングへ向かう。
目を見開き、窓の外をずっと見つめる総悟を見つけるまでは――・・
「総悟?オイ、何やってんだ」
「銀、兄・・・美咲が」
「美咲がどうしたんだよ!言えよ、総悟」
「美咲が事故に、遭って」
俺の世界が真っ白に変わってゆく。俺だけじゃない、銀兄の世界も晋兄の世界も白く染められてゆくんだ。
銀時は無言のまま十四郎と退の学校に連絡し、事情だけを伝え大江戸病院へ向かうように指示した。
5分もたたないうちにパトカーの音が聞こえてきて、階段を勢いよく登る音が部屋の中まで聞こえてきた。
「銀時!お前ら何やってんだ、早く乗れ」
「お、おう・・・悪ィな」
「しゃんとしろ、銀時!俺らがこんなんでどうすんだよ」
「そうだな・・・悪ィ」
総悟はあれから何も喋らない。よほどショックだったのか、表情も何も変えずにただ目から涙を流していた。
晋助も喋らずに、ただ下を向いているだけだった。
「総悟も晋助も、まだ美咲が死んだわけじゃねェんだ」
「・・・美咲、美咲」
「お前ェが信じねェで誰が信じんだよ」
「晋兄・・・」
クソ、とトシが呟いてタバコに火を点けパトカーの音を鳴らしマイクを手に取って息を大きく吸った。
「"道をあけてください!"」
警察官の特権だろうか。
トシがそう言った瞬間、目の前の車たちが道をあけだす。アクセルを踏み、病院へ急いだ。
「美咲・・・っ!」
病院へ着いたとき、手術室には「手術中」というランプに明かりが灯っていた。
近くのソファへ腰を下ろし、トシはタバコを消した。総悟はなだれ込むように座り込んだ。
30分くらい経っただろうか、廊下の向こうから退と新八おじさんの声が聞こえてきた。どうやら新八おじさんが退を連れてきてくれたようだ。
「銀兄さん、美咲姉さんは?」
「見てみろ、手術中だとよ」
「総悟くん、みんな・・・大丈夫だから」
「そうだぜ、俺ら信じねェといけねーんだ」
晋助の言葉に全員が頷いた。
今はただ、美咲の無事を祈ることしか出来ないのだから――・・
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