03
「すみません、親族の方!輸血をお願いします」
看護婦さんの慌しい声が廊下に響き渡った。
すぐさま総悟が立ち上がり、俺が行きまさァと言った。
トシと退はそれに賛成したのだが、銀時と晋助・・・それに新八おじさんは不安そうな顔をしている。
「俺は双子でィ、血液型も一緒でさァ」
「いや、退・・・行ってくんねーか?」
「・・・はい」
看護婦さんと一緒に手術室へ入ったのは双子の総悟ではなく、弟の退だった。
近藤家にはO型とA型しかいないはずなのに――・・
父がO型。母がA型。
銀時がO型。トシがA型。
晋助がO型。総悟がA型。
退がO型。美咲がA型。
と聞かされている。美咲と退は血液型が違うはず、なのに・・・なぜ。
「銀兄!説明しろよ!」
瞳孔が開き、銀時の首を掴み怒りのみに己を任せ言葉を発する。
訳が分からない。銀兄と晋兄と新八おじさんは何かを俺"たち"に隠している。
銀兄の顔もおかしい、なんで俺を殴らないんだ。病院でこんなに大声を出しているのに、何で何で――・・
「総悟、落ち着け」
「これで落ち着けってのかよ!」
「総悟、」
「離せ、離せよトシコノヤロー!」
「総悟!いい加減にしろテメー」
「・・・っ!」
左頬を思いっきり殴られて、我に返る。
下を向いたままの銀兄から手を離しトシの方を振り返る。
トシ兄も、俺と同じで何も知らないのに。そうか・・・今、ここで暴れたって美咲は助からない。
「すいやせん、銀兄・・・トシ兄」
「総悟、帰ったらちゃんと説明すっから」
「分かりやした」
無言。
それから2時間ほど経っただろうか。
疲れて眠る銀兄とトシ兄と晋兄。そしていつの間にか帰ってきた退。
「・・・総兄さん、あの」
「何でィ、起きてたんですかィ?」
「心配で。あの、俺・・・美咲姉さんとは血液型、」
「その話は今度でィ、俺も・・・分からねェ」
目を瞑る。
美咲の笑顔が瞼の裏に映る。無邪気に走り回る姿が見える、その姿が小さい頃の美咲になった。
俺のことを遠くの方で呼んでいる。こっち来て、お花が綺麗だよって。
美咲、そっち行っちゃだめでさァ――・・
「・・・手術は無事、成功しました」
汗で滲んだ額を、ハンカチで拭きながら先生が出てきた。
その後から瞳を閉じたままの美咲が運び出され、病室へと移される。まだ麻酔で眠っているらしい、もうじきに意識が戻ると。
去っていく先生の背中に呼びかける、反射的に体が動いていた。
「先生、美咲の血液型って」
「・・・弟さんと同じ、」
退と同じ?
退はO型、美咲はA型のはず・・・なのに。
何だろう、この続きを聞いてはいけないようなそんな気がするのは気のせいだろうか。
「"AB"型でしたよ」
「そう、ですかィ・・・ありがとうございやす」
AB型。
父親はO型で母親はA型で。
どうしてAB型なんかが生まれてくるんだろう。病院の先生が言うことだから間違いはないだろう、どういうことだ。
「俺たちは、双子・・・なんですかィ?」
自信がなくなってくる。
生まれたときからずっと一緒。じゃあ、生まれた直後の写真は?・・・ない。
美咲は近藤の血を受け継いでいる。じゃあ何でAB型?・・・分からない。
「分かりやせん、もう何も分からねェでさァ!」
「総悟・・・落ち着け、大丈夫だからな」
トシ兄の声が聞こえる。
頭の中がぐちゃぐちゃのまま、美咲の病室に入る。
美咲と俺は双子。生まれたときからずっと一緒。命を分け合った、片割れ。
「・・・大丈夫でィ」
手を握り強くそう言った。
何があろうと、俺たちはちゃんと双子でさァ。
眠っている美咲の瞼は花のように美しく、閉じたままだった――・・
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