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03



『晋・・・ちゃん?』


「何言ってんでさァ、晋兄さんは眼帯なんて付けてなかったぜィ」


「ククッ、いい女になったなぁ美咲。それに総悟も、久しぶりの再会だ」






私の目からは涙が溢れ出てきた。晋ちゃんだ、私の記憶のなかの晋ちゃんが消え・・・今の晋ちゃんは入ってくる。
総悟も泣いている。晋ちゃんも少しだけ・・・ほんの少しだけ泣いている。丁度入ってきた長谷川さんは、何が何だか分からないが泣いている。

急いで銀ちゃんとトシくんと退に連絡をして、今すぐ来てと言った。晋ちゃんがいたとは伝えなかった。






『晋ちゃん!晋ちゃ・・・、』






晋ちゃんの胸板に顔をうずくめて泣いた、声が枯れるまで涙が枯れるまで。
しばらくして到着した銀ちゃんは声も出ない様子で、トシくんは冷静にタバコを吸っていた。額に汗をかいて、表情は微妙に暗かった。
退も私と同じように泣いた。晋ちゃんがいる、兄妹が揃った、バラバラになった近藤家がまた・・・息を吹き返したんだ。

懐かしい晋ちゃんの匂い。小さいころ私はよく晋ちゃんにおんぶしてもらっていたと思うんだ、この匂い・・・すごい覚えてるんだもの。






「晋助、おまっ・・・バカヤロー!」


『嫌ぁ、銀ちゃん・・・晋ちゃん取らないで!』






無理矢理にでもしがみ付いた。私の頭を大きくなった手でずっと撫でてくれていた晋ちゃんだけど、トシくんと目が合ったとき少し固まった。
疑問に思って私もトシくんの方を見る。タバコを吸う手が微妙に震えていて、さっきと同じように額に汗をかいている。






『トシくんどうしたの、気分でも・・・』


「コイツ・・・晋助は、不良グループの頂点に君臨してる男だ。警察も手を焼いていたな」


「ククッ・・・悪ィな。俺を逮捕すっか、十四郎」






まさか、晋ちゃんが不良?どうしてそんな晋ちゃんがこんなところでバイトを?
せっかくの再開なのにこの重たい空気・・・嬉しいはずなのに悲しい気持ちになってしまう。トシくんと晋ちゃんが怖いよ。

晋ちゃんの袖を掴んでいたが、離してしまった。そして近くにいた総悟の手を握る。総悟の手も少しだけ震えていたのを私は知ってる。






「鬼兵隊はなぁ、俺らのように親のいない奴の集まり。大事な仲間なんだよ」


「晋助・・・テメェもしかして美咲たちがここで働いてるの知っててバイトしてたのか」


「銀時か・・・、鬼兵隊の奴らが教えてくれてよォ。ここに双子がいるってな」






晋ちゃんは私たちがここにいるって知っててバイトしてたんだ。何で声かけてくれなかったんだろう、それだけが謎に残る。







『晋ちゃん、その目は?』


「これか・・・?これは、俺の償いだ。美咲や総悟を守れなかった・・・償い」


「あのババァのことか。・・・大丈夫だぜ晋助、この銀さんが助けてやったからよ!」






晋助と銀時は肩を組んだ。不良グループの頂点だとしても、私たちの兄妹に代わりはない。家族なんだもの、どんな晋ちゃんでも。
傷は高校時代に負ったものらしい。そのころから鬼兵隊というものはあって、晋助は鬼兵隊を使って兄妹を探していた。

ある日入ってきた情報は信じがたいもので、双子の兄妹が学校で苛めを受け家では虐待されていると。


それを聞いたとき絶対信じないと誓った。でも、情報は日に日にエスカレートしていった。今日は弟だけが殴られていたとか。






「お前ェがその目で見たのか!?」


「見たでござるよ、晋助。おぬしも信じがたいのは分かる、拙者と一緒に見に行くでござる」






河上万斉に連れられるままに、少し大きな木に登る。上には来島また子が望遠鏡を持って待機していた。
望遠鏡を借りて、覗くと家が見え窓が見えそしてその中にいるまぎれもない俺の妹や弟がいた。その2人の前には俺の嫌いなババァ。

振り下ろされる拳。真っ赤になる頬を押さえ泣きじゃくる妹。どうにか妹だけは守ろうと必死になっている弟。


こんなとき、どうして俺はいつも何も出来ないんだ。悔しさでいっぱいになり、その家へ後日乗り込んだ。俺、一人で。






「あら、晋助くんじゃない。どうしたの、あの子たちになら会わせないわよ」


「俺の妹や弟を・・・もう殴るんじゃねェ!」


「あなたに何が出来るの?何も出来ないんじゃない、なら償ってあげなさい。あの子たちのために」






渡されたのはナイフ。果物を切るような小さなナイフで、おばさんは怪しい笑みをうかべていた。
頭がおかしいことになってるんだ、と思った。でも自分の頭もおかしいことになっていたことに気づいてなかった。

ナイフを自分の目に当てた。そして、叫びながら目を・・・自分の左目にナイフを突き刺した。激しい痛みに気を失ってしまった。
気づいたら病院にいて、親父が目の前にいたのかと思って飛び起きた。それは親父じゃなくて親父の弟。


俺を育ててくれたおっさんだった。顔が似てるもんだから本当にびっくりした。左目に痛みを覚え、うずくまる。






「晋助、どうしたんだ!」


「何でもねェよ、何でも・・・ねェ」






俺の償い。
すまねェ、美咲・・・総悟。救ってやることが出来なくて。悪ィ・・・






あきゅろす。
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