03
退は、私から離れると頭の上に手を載せて撫で始めた。見上げると、退は泣いていた。
私よりも大きくなった退は、すっごく大人びて見えた。昔みたいに後ろを付いて歩いてはくれないけど、今度は隣で歩けるね。
退の事はよく覚えてる。私が、お姉ちゃんになった日だもの。
生まれた時の事は全然覚えてないけど、お姉ちゃんって言って後ろを付いてくる退。可愛くて仕方なかったっけ?
「退、感動の再開は済んだかい?十四郎も、総悟も美咲も大きくなったねぇ」
『銀ちゃん、この人・・・』
「俺らのばーちゃんだ。退を引き取ってくれた人であり、父ちゃんの母さんだな」
おばあちゃん・・・?と呟くと、おばあちゃんと言われた人物は私の手を握ってくれた。暖かくて優しい手。
その瞬間に思ったの、この人は私のおばあちゃんなんだって。小さい頃に何度か触った事のあるような、懐かしい感触。
冷たく冷え切った体育館の中で、私たちは感動の再会に涙した。
「テメっ、コレは俺のだろうが!お前のはもう食ったろ!」
「まんじゅうの一つや二つ、いいじゃねーか!ケチマヨ」
『もう、喧嘩しないでよ。わたしのあげるから、ね?』
その後、おばあちゃんの家にお邪魔させてもらった私たち。気を利かせて退が隠し持っていたまんじゅうを出してくれたんだけど。
結局、喧嘩になってしまうのだった。おばあちゃんは、学校の用事だとかで一緒には帰って来なかった。
畳の上に座り込み、まんじゅうを食べる。幸せな時間だった。
退は、銀魂高校への進学が決まっていて制服が既に届いていた。私が着たかった制服、総悟が着たかった制服。
行きたかった高校。私たちの代わりに退が行ってくれるんならそれでいい。思う存分楽しんで過ごせばいい。
「退、俺たちの分まで高校を楽しんで行きなせェ。不登校になったら、俺が変わりに行ってやらぁ」
『そうだよ、退。私たちの代わりに楽しんでね!』
「総兄さん、美咲姉さん。・・・ありがとう」
それから、退の事について色々聞いた。
ここへ初めて来た時は、おじいちゃんもいたって事。でも退が中2の時に亡くなったって事。
学校でのあだ名はジミー。趣味・得意なものはバドミントン。
中学校ではずっと、バドをやっていたらしい。しかも中3では部長にもなったらしい。ジミーってあだ名は教室でだけだった。
『私も部活すればよかったなぁ・・・。でも、おばさんいたし出来ないよね』
「美咲姉さんたちは、あのおばさんに引き取られたんだよね?おばあちゃんが言ってた」
「そうでィ。あのババーは、俺らを虐待してたんでィ」
「んで、俺に会ったんだよな?トシにも電話して」
「あん時、美咲がすっごい泣きやがってな。ははっ、懐かしいな」
そして、退に銀ちゃんの家で一緒に住むかと持ちかけた。
実際、一緒に住みたいらしいのだがおばあちゃんを一人には出来ないという退らしい回答が返ってきた。
ごめん、と謝る退だが謝る必要はない。離れていても兄弟だし、毎日会えなくったって家族だし。
血は繋がってるんだし、会おうと思えばいつでも会えるし。
「んじゃ、俺らは退散するか。帰りに晩御飯買って帰ろうな」
『だめだよ、今日は余り物で何か作っちゃうから。もったいないでしょ?』
「美咲姉さんも、大人になったね。すっかりお母さんみたい」
お母さんみたい、という言葉を貰ってなぜだか嬉しくなった。お母さんとお父さんは交通事故で亡くなった。
記憶はあんまり無い。写真やビデオで見る限り、お母さんはとっても美人でお父さんはしっかりしていた。
でも、謎が一つだけあるの。
私の生まれた時の写真が一つもない。総悟の写真も、退の写真も。
銀ちゃんと、トシくんと晋ちゃんのならあるのに。きっと無くしたんだなと思ってきた。でも不思議だよね。
『兄弟じゃ・・・ない?』
一人で呟いてみた。そんな訳ないのに。私と総悟は生まれた時からずっと一緒。銀ちゃんもトシくんもみんなずっと一緒。
血だってちゃんと繋がってる。
帰り道、桜の木の眺めていた私の手を引いたのは総悟。銀ちゃんとトシくんはお得意の喧嘩。
『総悟?ずっと一緒にいた・・・よね?』
「何言ってんでさァ、俺らは生まれた時から一緒でィ」
だよね・・・、と言った私の声は春風にかき消されてしまった。
桜の花びらが、目の前を落ちて行く。嗚呼、春が来たんだなと。
残るは晋ちゃんだけ。一つ上のお兄ちゃん、情報は何一つないのに。何故かな、絶対会えるって思っちゃった。
春はすぐ隣に。
君もすぐ隣に。
近くにいるよね、晋ちゃん――・・
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