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02



無事に電源が入ったビデオカメラをセットしてから数分後。在校生たちが入場してきた。
神楽の姿が見えると両手で大きく手を降りはじめる銀時。神楽も恥ずかしそうに手を振り返す。

見ているこっちが恥ずかしくなって銀ちゃんの手を止めた。おばさんたちは顔を真っ赤にしてトシくんだけを見てたけど。


総悟はアイマスクをつけて寝ている。神楽の姿を見ると喧嘩してしまうから、総悟の配慮なのかな?でもそのアイマスクは恥ずかしいかも。






「それではお待たせしました、卒業生の入場です」






音楽が鳴り始め、卒業生が入場してきた。最初は一組。退の姿はない。
二組、ここにもいない。三組、四組、五組、六組、七組、八組・・・、退はどこにもいなかった。

呆然としているわたしの手を銀ちゃんが優しく握ってくれた。もう片方の手は総悟が。両手を掴まれて、安心するけど・・・退の事が頭を過ぎる。






「そんな顔すんなよ、自慢の可愛い顔が台無しだろ?・・・な?」


「そうでィ、美咲がそんな顔すると俺だって悲しくなりまさァ。美咲には笑顔が一番ですぜィ」


『・・・うん、ありがと』






優しい言葉は魔法なのかな?さっきまでの不安は少しばかりだけど、なくなった気がした。
涙を抑える事だって出来るようになった。気づけば、既に卒業証書授与は終わっていた。退の名前が呼ばれてたかもしれないのに。

司会の人が、ボードを持ってマイクに口を近づける。






「在校生代表の言葉、神楽」


「は、はい!」






神楽の名前が呼ばれ、緊張したように返事を返す。そして舞台の上に上がるのだが、何度こけそうになった事か。
ポケットから祝辞を取り出すと、震える手で紙を広げる。神楽の背では、マイクの位置が高すぎるので一生懸命手を伸ばして、合わせようとする。

小さい神楽は、舞台の上に立っていながらも顔が見えるか見えないかくらいの位置だった。
銀ちゃんは、叫ぶのを我慢していたようだがいきなり席から立ち上がると叫んだ。






「かーぐらー!頑張れよー!」


『ちょ、銀ちゃん!・・・すいません』






銀ちゃんを座らせ、周りの泣いているおばさんたちに一礼。トシくんは未だにおばさんたちのお相手。総悟はゲームに集中。
家に帰ったら説教だな、と一人考えている美咲の前にある単語が耳に入ってきた。

聞きなれた言葉、捜していた言葉。
耳を疑ったが、自分に何度も問う。今の言葉は本当なのか、目線は舞台の上へと移される。






「卒業生代表、近藤退」


「は、はははい!」






近藤退、と呼ばれた人物は神楽よりも緊張している面持ちで舞台の上へ上がる。神楽はこけそうになたが、呼ばれた男子生徒は実際にこけてしまった。
卒業生の中では、頑張れという励ましの言葉が飛び交っていた。

一見地味そうな顔。何の特徴もない、髪の毛。でも、私の目は騙されなかった。



退でしょ?退なんでしょ・・・?






『さが・・・っ』


「退!おい、退なんだろ!」






涙で詰まって言えなかった私の代わりに、立ち上がって言ってくれたのはトシくん。おばさんたちに掴まれた手を振り解いて、手を握る。
トシくん以外の人、全員が注目する中トシくんは続ける。泣きたいを我慢して、握り拳をさらに強く握り締めて続ける。

一言一言が私の胸に刻まれていく。
嗚呼、退。私のたった一人の弟。そして、みんなの大切な家族。






「俺は十四郎だ!お前の兄貴だよ、覚えてるか?」






男子生徒。否・・・、退は目を大きく見開いて口を動かす。その声はマイクを通して私たちの耳にも届いてくる。
退は確かにこう言った。


「トシ兄さん・・・?」


そして、私たちの顔を順番に見て名前を呼んでゆく。総悟はゲームを床に落として、それを拾おうとしない。
顔を見ると、両手で覆っていたので表情は見えないがきっと泣いている。だって、肩が震えてるんだもの。
銀ちゃんも泣いてるし、トシくんだって頬に涙が伝ってるよ。私だって、もちろん泣いてる。

そして、退も泣いてる。






「こ、近藤!泣いてないで、言葉を続けなさ・・・」


「もういいだろう、感動の再開を邪魔するんじゃないよ。卒業式は終わりだよ、さっさと帰りな」






少し皺の多いおばあさんが、マイクでそう言うや否や生徒たちは玄関から出て行く。先生たちはみんな慌てていたけど。
私の足はまっすぐと、一歩づつ退に近づいてる。私よりも小さかった背が今では抜かされてしまった。

小さかった手が大きくなっていた。離れ離れになっていた年月を埋めるように、抱き合って確かめ合う。






『退!退・・・、退っ!』


「美咲姉さん・・・、総兄さん、銀兄さん、トシ兄さん」


「大きくなりやしたねィ。でもまだ、俺の方が勝ってまさァ。・・・おかえりなせェ、退」






感動の再開をしている間、銀時はさっきの皺の多いおばあさんの元へと向かっていた。おばあさんはポケットからタバコを出すと吸い始める。
先生ではなさそうだ。だったら校長?





「ババア、さっきはありがとな」


「ババアじゃないよ、アンタらのおばあちゃんさね。来る頃だと思ってたよ」






家族がまた、増えました。
兄弟がまた、見つかりました。

そして、綺麗な桜が咲きました――・・







あきゅろす。
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