03
前の人たちが賽銭を済ませ、私たちの番が来た。
銀時の前に手の平を突き出す美咲と総悟。多分、賽銭代を差し出せという意味なのだろうが銀時には上手く伝わって無かった。
「何?手、繋ぐ?」
「違いまさァ、賽銭代よこせって事でィ。せめて10円くらいな」
総悟はさらに手の平を銀時の顔の前へ持っていく。
10円?そんな物で家族が、死んだお父さんとお母さんは帰って来るの?晋ちゃんや退だって帰って来るの?
毎年願ってた。家族を返してください、と。何度も何度も繰り返した。
そうしたら、銀ちゃんとトシくんが現れたよね。信じてよかった、と本気で思った。
『銀ちゃん、総悟…。10円じゃ足んないよ、100万円くらい用意しないと』
無理なのは分かってて言った。ただ、それくらいの覚悟がある事を知って欲しかっただけなの。
「100万は無理だけど、たくさんお祈りしようか。晋助と退が見つかる事を…」
「そうでィ、家族の絆は必ずどこかで繋がってやすから。信じやしょう、晋兄と退の事を」
『そうだね。祈ろうか、神様に』
銀ちゃんに渡された10円玉を賽銭箱に投げ入れ、両手を合わせる。
神様、どうか。どうか私たち家族を巡り逢わせてください。晋ちゃんと退に逢わせてください。
神様が意地悪だったら会えないけど、もしこの願い通じたのなら早く会わせてください。
「後ろ詰まってるみてーだし、帰るか」
『うん、帰ったら甘酒で乾杯だね』
「…あれだけ反対してたのに、不思議でさァ」
帰りは以外と早かった。知り合いにも会わず、ただ黙々と歩き続けたからね。
アパートの前に行くと、眼鏡を掛けたおじさんが立っていた。
不審者かな、とも思ったがなぜか誰かに似ているような気がする。昔会った事があるような、そんな感じ。
「あ、新八のおっちゃん・・・」
『し、新八おじちゃんなの?お母さんの弟の?』
だから誰かに似ていると思ったのか。だって、新八おじちゃんはお母さんの弟だもんね。
おじちゃんは私たちに気付いたみたいで大きく手を振ってくれた。昔みたいに、あの無邪気な笑顔で。
総悟は誰か分からずに銀ちゃんの後ろに隠れていた。ああ見えて結構人見知りだったりするからね。
『おじちゃん、久しぶり。どうしたの?』
「美咲ちゃんだよね、大きくなって。今日はお年玉を渡しに来たんだよ」
「おっちゃん、もちろん俺にもあんだよね?お年玉」
「銀時くんはもう大人でしょーが。まあ、一応あるけどね」
総悟もやっと思い出したようで、近くに寄ってきた。
銀ちゃんはお年玉ーと叫びながら駐車場を走り回っていた。恥ずかしいから、と銀ちゃんを無理やり家の中へ入れた。
みんなの前に温かいお茶を出すと、一気に飲み干す為お茶がいくらあっても足りない。こたつもヒーターも点けて部屋もだいぶ暖まってきた。
新八おじちゃんは鞄から3つのお年玉を取り出した。
「はい、これが僕からね。もう2つは・・・、覚えてるかな」
残り2つのお年玉を机に置いた。名前の所には「柳生九兵衛」と「東城歩」と書かれていた。
どこかで聞いたことあるような、ないような。
「俺ァ、知ってますぜィ。美咲お前、九ちゃん九ちゃん言ってたじゃねェかィ」
『九・・・ちゃん?あ、思い出した!お母さんの友達ね、九ちゃん』
「それに、東城さんってその九ちゃんのストーカーじゃなかったっけ?」
そう、お母さんの親友でよく家に遊びに来ていた人だ。東城さんも思い出した。
九ちゃんの事を若って呼んでて、目が細い人。
お葬式でも見た。すごく泣いていて、私の頭を優しく撫でてくれた人。笑顔がすごく可愛い人。
「それにしても、美咲ちゃんと総悟くんは大きくなったね。前まで僕の眼鏡を取って遊んでたのに」
『え、ごめんなさい!そんな事してたのね、私たちは』
「美咲ちゃんじゃないよ、総悟くんがね。何回も姉上に怒られてたけど」
新八おじちゃんの姉上とはお母さんの事だ、きっと。お姉ちゃんとか他に呼び方はあると思うけど、何で姉上なのかはよく知らない。
けど2人はとても仲が良くて、何回も遊びに来ていた記憶がある。
そう言えば、銀ちゃんとトシくんは新八おじちゃんに引き取られたんだったよね。だからこんなにも親しいのか。
トシくんは元旦から仕事で大変らしい。お年玉はお預けと言っていた。
神楽に電話してみたが、お笑い番組に夢中で終わったら行くとか。でもそのお笑い番組は夜の10時くらいまで続くらしい。
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